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[ サスペンス ]
メグレ警部と国境の町
メグレ警視
ジョルジュ・シムノン 出版月: 1961年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1961年01月

No.2 5点 クリスティ再読 2023/06/05 17:45
「メグレを射った男」の書評で「入手は降参」と書きはしましたが、調べてみると「国立国会図書館デジタルコレクション」というナイスなサービスがあります。身分証明書の画像を送って認証してもらうとかネット上の手続きが必要ですけど、シムノンの創元絶版分はおろか、名のみ聞く春秋社の刊行本やらわっさわっさと読むことができちゃいます。
本書とか「国会図書館で読んだ!」とか声の多い作品ですからね、こんなサービスするなら当然の候補というものでしょう。ただし、OCRではなくて画像としてそのまま取り込んだものですから、やや使い勝手は悪いです。スマホでもPCモニタでも読みづらくて、ノートパソコンを膝に乗せて立膝で寝転んで読むのが楽ちん。
そんな怠惰な読書姿勢でですが、幻の作品、行きましょう。

ベルギー国境の町ジベを、半ば私的な依頼のかたちで訪問したメグレ。パリで会った女アンナ・ピータースの冷たいキャラに興味を引かれて、アンナの弟ジョセフが、婚約者がありながらも子供まで作った女の失踪事件の捜査に乗り出したのだ。食料品店兼で角打ちでジンを提供し、フランス国内でありながら国境の向こうのフランドル人の河川労働者を相手に、利益を上げているピータース一家。そんな余所者一家の長男が、フランスの貧しい一家の娘に手をつけて子供まで作りながらも、許嫁と結婚しようとしている...ジベの街のフランス人からはこの失踪事件が一家の仕業と目されて、不穏な空気が漂っていた。メグレはこの事件をどう収拾するのか?

川沿いの街ということもあり、シムノンお得意の舞台設定、さらにはベルギー国境の街。さらには小商売に成功したプチブル傾向の強い余所者と、貧しい地元民の対立....コテコテのシムノン、と言いたくなるくらいの作品。でも事件は意外に単純。アンナの独特の情の強いキャラはいいんだけども、どうも作品としてはうまく回ってない。瀬名氏は「オランダの犯罪」の焼き直し、と言っているけども、まあそんな感じもあるかな。
さらにオチも第一期にたまにある後日譚で、ここらへんも「オランダの犯罪」っぽすぎるね。

う〜ん、雰囲気にはいいものがあるんだけど、手癖で書き飛ばしたような、と言ってしまえばそれまでか。メグレは本作だとジンばっかり飲んている(苦笑、あ一度グロッグにした)。

No.1 7点 2009/05/06 15:25
原題(「フランドル人の家で」)とは全く異なるこの創元の邦題はありきたりなようでいて、本書の味をうまく出していると思います。ちなみに「警部」となっているのは、フランス語のCommissaireをどう訳すかという問題です。
メグレはベルギーとの国境の町ジヴェで私人として事件を捜査します。冬の日駅に降り立つとすぐ、氾濫したムーズ河の濁流を目にするところからして、もういかにもシムノンらしい雰囲気です。国境の町でフランドル人とフランス人の間にある反目は、描きこめばいやらしい緊迫感が出るでしょう。しかし民族的な一般論はさらりと流し、むしろ容疑者のフランドル人ペーターズ一家と被害者ジェルメーヌの家族の一人ひとりに焦点をあてていくのは、まさにシムノン流小説作法です。
イプセンの「ソルヴェイグの歌」が引用されていますが、グリーグが作曲した同名の叙情的な曲は、静かなクライマックスでのメグレと犯人との会話部分のBGMとしては最適な気がします。


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