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就眠儀式
福島正実 出版月: 不明 平均: 8.00点 書評数: 1件

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ノーブランド品


No.1 8点 クリスティ再読 2026/07/07 18:14
さて「就眠儀式」はもう2冊本がある。1冊は草野比佐男という農民歌人の歌集だが、もう1冊はお馴染み福島正実のショートショート集。でもこれ、ただのショートショート集ではない。福島正実の遺作集というかたちで死後に角川文庫で出版されたのと同時に、福島正実の香典返しとして配られた非売品が存在する。内容は、冒頭の表題作は入院直前に書きあげて「ある社内誌」に掲載されたもの。それに続く24本は生前に作者自身が選んだ自選ショートショート集。後半25本の大部分は老人向け雑誌「ケア・ライフ」に発表されたものだそうだ。

心して読むべきショートショート集だ。評者ももう若くない(というか、福島正実は47歳で亡くなっている)。まさに「死の陰の谷を歩む」が如き作品集である。

一読して感じるのは、やはり星新一との資質の違いである。おなじSFショートショートでこれほど肌触りが違うか?というほどの違いがある。星新一は一種のモラリストであり、人間心理のアヤを突き放して、科学者的と言っていいほどに価値判断を離れて「非人情」に徹して描いている。福島正実は違う。より主観的であり、モラルに対して「でも!」という控えめな抗議の声を聞き取るべきだろう。そして星が世相に超然としているのに対して、福島は世相に対するひそやかな抗議の声としてショートショートが書かれている。オチとなるSF設定はその抗議の具現化というべきだろう。

星新一も何度も終末絵図を描いたものだが、福島だと終末の日の狂宴が実は

つい最近までの幻覚剤は、ありきたり他愛のないユートピア風の幻想ばかり見せるのでたちまち飽きがきてしまった。(中略)そうしたみなの要望に応えて出て来たのがいまの終末幻覚剤なのだ。

と「終末幻想は、きびしい現実が心に鬱積させた潜在意識」を解放するために働くという逆説をまさに示している。実際、SFが志向する「未来学」の対蹠物は「終末論」に他ならない。だからこそ、SFと終末論はひとまわりして重なり合う。

しかし、そのSF世界の「終末論」とは、まさに死に向かう者の「自己の終末論」に反転する。冒頭の遺作「就眠儀式」はまさに自己の終末を「就眠儀式」として繰り返す話。「きれいに死ぬ」思いでこまごまとした身の回りを片付け、ガスホースを抱くことを自身の就眠儀式とする女、そしてそれを見抜くかのように「お願い、死なないでくれ」と詫びるように金を渡す男は、それを男自身の「就眠儀式」と捉える。

死んだ人は、生き残った者を軽蔑しているわ。

これがまさに終末論の遠近法なのである。


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福島正実
1975年11月
地底怪生物マントラ
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1975年01月
真昼の侵入者
不明
就眠儀式
平均:8.00 / 書評数:1