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[ 警察小説 ]

岩下俊作 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 人並由真 2026/05/29 06:35
(ネタバレなし)
 サンマータイム制度(昭和27年4月に廃止)がまだ採用されていた昭和20年代。その年の9月10日から11日にかわる深夜。九州の小倉の海岸で、とある中年男の死体が見つかった。死体の頭部に縄が巻き付けられていたことから当初は絞殺かと思われたが、ほどなくして検死で死因は青酸カリによる毒死だと判明する。だが死体の身元は杳として判らなかった。所轄の磯部次郎太警部と唐原警部補は、他殺と、自殺後の別人による死体遺棄、その二つの可能性で捜査を進める。一方で検死に関わった私立病院の内科系の若手医学士・菊池とその同僚の精神病理学の医学士・山田はともに素人探偵の立場から事件を考察。医学士コンビは死体の周辺にあった文書の「金魚」のキーワード、そしてイニシャルらしき「A・B」の文字から推理を始めるが。

『富島松五郎伝』……といってもわかりにくいね。つまり映画『無法松の一生』の原作小説、その作者である岩下俊作が書いた(たぶん)唯一の長編推理小説。
 いや、私だって『富島松五郎伝』は読んでない。大昔の少年時代にテレビの映画劇場で、三船だか阪東妻三郎だかの映画版(ともに稲垣浩監督)のどっちか(たぶん前者だと思う)を観て、コドモ心に未亡人のヒロインに無器用な思慕を捧げる主人公の純情をなんとなく理解してジーンとなった程度である。

 それでネットとかでも、ほとんどレビューがない本書。おそらくは作家・岩下俊作の著作のなかでは余技に属する作品なのではあろうが、誰も読まないでいつまでも放っておいていいの? という気分で昨夜からページをめくり始め、紙幅のほぼ半分ずつ、二日かけて読了した。今回は、1958年の五月書房の箱入りハードカバー(たぶん元版)で読んだ。そーいや、この本、死んだ父の蔵書にあったな。どっか行ってしまったから、ネットで古書を安く買ったが。

 物語の大筋はプロの警察勢の捜査と、素人探偵コンビの調査を織り交ぜながらよくいえば丁寧に、悪く? 言えば地味に渋く進め、読み手としてはその与えられる情報の軌跡に黙って付き合っていくタイプの読書。当然、事件容疑者や関係者らしき対象も際限なく拡張し、読者側が謎解きの推理を楽しむ性格の作品とはあまり言えない。
 それでも戦後からまだ時間の経たない昭和20年代の九州の叙述にはそれなりに独特な興趣と風格があり、ローカル描写だけでもソコソコ楽しめる。CSで話術のうまい白黒の旧作邦画を観ているような面白さというか。
(個人的には、小学生時代に社会科の教科書で読んだ八幡製鉄所の臨場感ある描写~戦前の4万人近い住人を抱えた工業都市~が素で興味深かった。)

 一方で作者も、さすがにミステリ作法の勘所をツメきってはいないため、かなり紙幅を費やした割に読者はあまり意味のある情報をもらえない、という面もある。それでも中盤で、ああ、これがキーパーソンだな、という人物が物語の表に出てきてからは、作者のプランニングが動き出す感じで、筋運びに一応の勢いはかかるが。
 あと当然ながら、登場人物は多いよ。名前があるキャラクターだけで60~70人に及ぶ。
  
 とはいえ作者もミステリ的なトリックは中小、いくつか用意してあり、それぞれ別個の国産ミステリの名作を連想させるものではあるが、それらからさらに少しひねってあるのは評価できるだろう。まあそこを目当てに読むようなトリッキィなパズラーでは決してないが。

 最終的には謎解きミステリ、というよりは事件の奧にある人間ドラマの叙述に重きが置かれてしまった傾向の作品だが、これはまぁ、作者の素性(あくまでこっちもネットのデータで知ってるだけだが)からしてそうなるだろうな、という手応え。それ自体をそういうものだろう、と了解するなら、まぁ決して悪い出来ではない。たぶん。
 
 読んで面白かったか、良かったか、といえば、イヤミやあおりでなく、まあ肯定的にソコソコ。しかしそれ以上に、昭和ミステリファンとして、読んだだけでちょっと自慢したくなるような、そんな、一見、敷居の高そうな? 作品で一冊であった。


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岩下俊作
不明
平均:6.00 / 書評数:1