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[ ホラー ]
真景累ヶ淵
三遊亭円朝 出版月: 2007年07月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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中央公論新社
2007年07月

ゴマブックス株式会社
2017年03月

No.1 6点 クリスティ再読 2025/09/05 13:43
夏は怪談。まだ暑くてたまんないからイケるかな。
日本三大古典怪談って何か、といえば「東海道四谷怪談」は当確だが、円朝で本作か「牡丹灯籠」は動かし難ろう。あとはハーンの「怪談」くらいか。「牡丹灯籠」は中国ネタだから今回は避けて本作。

いや本作大長編だからね。金貸し按摩の宗悦殺しから始まる因縁が、謀殺だけでも新吉お賤による惣右衛門殺し、聖天山での甚蔵殺し、富五郎一角による惣次郎殺し、虐待死でも新吉による豊志賀・お累の2件、さらにカッとなって殺したとか事故死ならば枚挙に暇なくて、総死者数20名超。最初に殺された宗悦の祟りもあるが、それから始まる因縁で、作中で10人もの人間の死に直接間接に関わった事実上の主人公新吉の殺人鬼っぷりが凄まじいな。

でもさ、この新吉って悪党には違いないのだが、女にだらしなくて行き当たりばったりに生きた結果でもあるのだ。さらに言えば、宗悦の娘の豊志賀が、自分を虐待して捨てた新吉にかけた呪いである「新吉の女房を七人呪い殺す」の結果にもなっている(七人は死んでないが)。

まあだから怪談、とは言っても、具体的な生きている人間の人間関係の中で殺人が起きているという印象。超自然的な怪談というよりも、現象的な殺人にウェイトが大きくて大規模な殺人絵巻であるから、「血の収穫」も真っ青な大江戸ノワールだな。もちろんこれには、マクラで円朝が自ら述べるように、

人を殺して物を取るというような悪事をする者には必ず幽霊が有りまする。これが即ち神経病といって、自分の幽霊を背負っているような事をいたします。

と、幽霊は神経(自責感情)のせいだ、とするなかなかに「開化した」話だったりするのだ。真景=神経なんだからね(苦笑)

しかしだ、多くの死者が鎌に因縁付けられて、鎌で怪我をし鎌で死ぬ。これがどうにも不条理で怖い。考えてみれば、円朝の噺の元ネタになった「累ヶ淵説話」で鎌がキーアイテムになっていることから、円朝の噺の中で鎌による死がコピペのように多用されることになり、結果元ネタ以上の不条理な怖さが醸し出されたのかもしれない。幽霊は神経の理に落ちているから怖くないが、理に落ちない鎌の方が怖いんだ。

(昔、露の五郎兵衛師匠の高座で「宗悦殺し」を実演で見たことがあったな。芝居仕立てな演出があって、見得を切るような落語だったことが印象的)


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三遊亭円朝
2007年07月
真景累ヶ淵
平均:6.00 / 書評数:1