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[ サスペンス ] サイケデリック・マウンテン |
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榎本憲男 | 出版月: 2023年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
![]() 早川書房 2023年05月 |
No.2 | 6点 | 猫サーカス | 2025/04/16 19:22 |
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国際的な投資家の鷹栖祐二が、東京・青山のバーで中年男に刺殺された。犯人の三宅はすぐに逮捕され、犯行も素直に認めたが、動機はあやふやなうえ、新興宗教・一真行の元信者であることが判明し、マインドコントロールされている疑いがあった。国家総合安全保障委員会の兵器研究開発セレクションの井潤紗理奈と、テロ対策セレクションの弓削啓史は警察に協力して調査に取り組み、和歌山に本部を置く「一真行」の近くで、脱会した信者たちのケアに当たっている心理学者の山咲岳志のもとに赴く。日本の現実と先取りした世界観のもとで展開されていくその世界観とは、武器輸出が解禁され、自衛隊が自衛軍と改められ、死者のない戦争状態こそが、疲弊した日本経済を活性化させる唯一の方法であることが日増しにリアルになりつつある、社会のことである。第一章の最後で井潤紗理奈が見た和歌山の山奥の光景が、殺された鷹栖祐二の半生を描いた第二章と呼応し、本書のタイトルに結びつく。現実に起きたある事件を取り込み、愛国を声高にいう者こそが売国の徒ではないかと問い掛ける。蘊蓄部分が冗長に感じるが、政治、経済、金融、情報工学から宗教、哲学まで織り込んだ博覧強記な筆致に圧倒された。 |
No.1 | 6点 | びーじぇー | 2024/12/11 19:03 |
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国家総合安全保障委員会(NCSC)兵器研究開発セレクションの井潤紗理奈は、テロ対策セレクションの弓削啓史から新種の自白剤がないかと聞かれる。国際的な投資家を刺殺した容疑者は新興宗教「一真行」の元信者で、マインドコントロール下にあると疑われていた。だが自白剤も決定的なところで効果がなく、二人は和歌山の「一真行」本部の近くに住む脱洗脳のスペシャリストである心理学者の元へと向かう。
新しいエネルギー問題を中心にした国際的紛争を政治的・経済的な側面から徹底的に捉えていく。何よりも面白いのは、宗教と心と脳の深層に分け入り、テロ対策の新しい手法として提示している点。終盤は思いもよらない展開を辿り、それが愛国の議論にもつながり、テロを容認するか否かになる。日本の今を見据えた骨太のサスペンスである。 |