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[ 本格/新本格 ]
死に髪の棲む家
織部泰助 出版月: 2024年10月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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KADOKAWA
2024年10月

No.1 7点 人並由真 2024/12/27 08:01
(ネタバレなし)
 その年の9月。自作の小説で身を立てようとしながら、ゴーストライターの売文業で食いつなぐ「私」こと作家・出雲秋泰は、懇意の編集者・神田宏一のはからいで、地方の大実業家の「自叙伝」を代筆する仕事を得た。早速、福岡県の祝部村に赴き、90歳の大富豪・匳(くしげ)金蔵の取材をしようとする出雲だが、彼はその村で髪の毛にまつわる怪異な因習を認める。やがて現地でとある事態に遭遇した出雲は、成り行きの中で、三重に不可能状況の密室殺人に関わった!?

 角川ホラー文庫の叢書レーベルから出ている今年の新刊だが、実際には完全にガチな館もの系のパズラーだというTwitter(現Ⅹ)でのウワサを聞いて興味が湧き、イソイソ読んでみる。
 ちなみに作者は7年前にすでにラノベで、やはりホラーミステリらしい作品を一冊刊行済み(評者は未読)。 

 ……いや、噂通りの不可能犯罪フーダニットで、レーベルに見合ったホラー風味の設定のなかにトリックも満載、イベントも続出して読者にサービスしまくる作りになっている。
 とはいえウリ? の三重密室の解法に関しては前例がないわけでもないし、他のメイントリックのひとつもどこかで見たようなものだが、事件の場となる匳家の構造を使った某トリックはなかなか面白い(発想もそうだが、実際に犯行が進行しているときのビジュアルイメージも)。

 探偵役は一人称「私」の出雲自身か、と当初は思わせるが、ちょっと趣向があり、その辺は詳しくは実作を読んで。ただし出雲自身もアマチュア探偵としてそれなりのひらめきを見せる。

 ニヤリとしたのは伏線の張り方と、中盤のややバカミスっぽい(というかいかにも新本格作品めいた)中技のトリック。後者は小島正樹か門前典之系の、あの手の路線に近い。
 全体にお約束の部分も目立つ作品ではあるが、登場人物たちも総じてキャラが印象的に立ってるし、これだけ盛り込んでもらえば十分であろう。

 意識の高いファンにアレコレ言われたり、どこかで見たような作風で新鮮味がないと謗られそうな気配もないではないが、個人的にはトータルとして普通以上に面白かった。途中がちょっとダレかけるが、その辺は前述のように作者も読者サービスを心掛け、キャラクターの出し入れと中小のイベントで受け手を退屈させないよう配慮してある感じ。
 たぶんシリーズ化はされるんでしょう。


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織部泰助
2024年10月
死に髪の棲む家
平均:7.00 / 書評数:1