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[ サスペンス ]
謎の巨人機(ジャンボ)
福本和也 出版月: 1975年10月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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光文社
1975年10月

KADOKAWA
1980年07月

光文社
1988年06月

No.1 7点 斎藤警部 2024/09/15 22:51
大量の死人を運んで羽田に不時着したジャンボジェット機。 乗客、乗務員、生き残りは一人もいない。 こんな魅力的な、ある種のバカトリック発動を期待させかねない、物理的規模の巨大な謎を引っ提げて始まる本作。 空港にて異様な非常事態が判明するまでの、現役パイロットであった作者ならではの臨場感張り詰めるハードボイルド描写が実に、読者の襟首を掴みに掴む。 後からちょっとアホな造形の人物や、当時の通俗まっしぐらの展開など登場するが、この渋いオープニングのお蔭で、基底部に在る硬派なイメージはそうそう揺るがない(かな?)。
 
もう一つ、前述の「大量の死人」が実は、或るジェット機から全く別のジェット機へと何処かでまるごと移動させられていたと目される動かぬ証拠が見つかった!! その入れ替えが行われた場所はどこなのか?? 生きたまま入れ替えられたのか!? 全員、あるいは一部屍体となった状態ですり替わったのか?! 「大量の死人」自体の謎に負けず劣らずこっちの不可能興味もギンギンに強烈だ。 

“鉄工所、ラーメン屋、靴工場、映画館のフィルム配達、魚屋の店員、バーテン、自動車の板金修理工と、母親の挙げた職業には◯◯は入っていなかった。”

割と早くに明かされる、とある渋い物理的物理トリックは大歓迎。 おまけに初等数学がその司令塔に位置している。 と思ったらもう一つ、小説的効果のスケールが大きい割に、その作為は実にセコいとも言える、ちょっとおバカな? 物理的心理トリックが! しかも、それってもしや意外と、最後まで当局の誰も気付かないまま闇に・・・って事もあり得るのか? こりゃあなかなか面白い「トリックの立ち位置」と言えるかも知れませんな。 

探偵役らしき人物が警察に追われ続けたり、物語のオープナーたる人物の立ち位置が微妙で気を持たせたり、被害者の中で誰が(小説的に)ミスディレクション担当なのか迷わせ上手だったり、登場人物配置の妙が実に冴えています。 これに繋がって真犯人隠匿の術もなかなか。 或る人物と或る人物とのアレは(故意に?)見え透いてはいたけれど、それでもなお。。

「帰っとくれやす。帰らんと塩撒くで!」

冒頭に現れる、まるでイリュージョンの如く巨大な謎がちょっと尻すぼみに解決されて行くのは・・少しばかり寂しいが ・・・「不可能興味1」が、まるでそんなの常識と言った風にあっさり明かされ、それを踏まえた「不可能興味2」を ・・・( 中 略 )・・・ されどやはりこの島田荘司ばりの大型バカ案件じみたものが、存外質実なじっくり解決へと収束して行く様こそが良いのかも知れん。 きっとそうだ。 リアリティ溢れる航空業界描写のみならず◯◯業界、◯◯業界に裏町業界へと分け入った描写も、そのリアリティはともかく、ぐいぐい読ませる強い魅力があります。 何とも哀れなる「辞世の言葉」と共に消え入るラストシーン、その後ちょっとだけクスッとさせる物的証拠で締めるエピローグ、このあたりも(ちょっと品が落ちる気もするが)実に印象的。

森村誠一氏の巻末解説によると、福本和也という人は現役航空パイロットが作家兼業になったのではなく、逆に、作家の福本和也がその文章に幅を持たせる?喝を入れる?ため航空パイトットを兼業する事にした、のだそうですな。 なんとも豪気な話で、何よりです。


【ネタバレ】
気を配ったであろうちょっとした叙述ほのめかしやギミックが功を奏したのか、もしや、まさか、この探偵役こそ実は。。。 なんて大いに気を揉ませていただきました。


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