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[ 本格/新本格 ]
恋愛ゲーム殺人通信
翻訳家探偵・加賀淳平
風見潤 出版月: 1992年08月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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光文社
1992年08月

No.1 6点 人並由真 2024/04/15 07:23
(ネタバレなし)
 1990年代の初め(たぶん)。編集プロダクション「UTAプロダクション」に勤務する26歳の女性編集者・宝生敦子は、同い年の翻訳家・加賀淳平の原稿を受け取る仕事の最中に、かつての勤務先「武蔵火災海上」の後輩で友人だった高瀬知美が急死したことを知る。知美は縊死による自殺と見なされた。だが敦子は、知美は機械にまったく弱かったはずなのに、当人の住居にワープロやパソコン通信用のモデムがあることに不審を抱いた。アマチュア探偵として動く敦子は淳平とも連携し、やがて意外な事件の真実が暴かれていく。

 文庫書き下ろし作品。『死んでも死ねない殺人事件』に続く、翻訳家探偵・加賀淳平シリーズの第二弾。ただし主人公は敦子の方で、作者はあとがきで彼女をシリーズキャラクターにする気がある旨、語っている。
 とはいえ実際にどうなったかは、評者はよく知らない。なんせ風見ミステリは、本書が初読みのハズなので(笑・汗)。
(もしかしたら大昔にソノラマ文庫の方の風見作品は、何か読んでいたかもしれないが、もし読んでいたとしたら、すっかり忘れている。)

 本作作中の記述が正確なら、刊行当時にパソコン通信の利用者は60万人。ネット文化がこれほど浸透した2020年代の現在ならお笑い種の参加者数だが、当時は急速成長する過渡期の文化で、関心を抱く初心者の数も、上向きに流動的だった。本書はそういう時代の一般読者に向けた技術ハウツーもの、という側面も大きかった、そんな長編ミステリのようである。
 当然、今となっては、そういう30年ちょっと前の文化事情を覗く意味で、面白さも感じる一冊となっている。
(評者も一応、当時からパソ通は利用していたが、ここで初めて知った&当時は知らずに通過した、機能や技術などもいくつか紹介されている。)

 ミステリとしては一応はフーダニットだが、犯人を隠す気はほとんどないような作り。むしろ、どのように犯行が形成されたかの謎解きの方が面白く、パソ通という作品の主題をちゃんと活かしてあるあたりには好感が持てる。
 赤川次郎風のライト級ミステリだが、その辺の練り込みようは大半の赤川作品の比ではないだろう(まあ、そういう評者も、引き合いに出した赤川作品は、たぶん100冊も読んでないけれど・汗)。

 早逝された水玉螢之丞先生のジャケットカバーのイラストが懐かしい。表紙の女性はヒロインの敦子なんだろうけど、設定では髪がショートカットなので、作者と編集者と水玉先生のコミュニケーション不足orミス? と思いきや、本文の挿し絵の敦子はちゃんとショートヘアである。表紙の方はカラー印刷なので入稿の締め切りが早くて齟齬が生じ、中味の方はちゃんと整合させられたんだね。
 冒頭から敦子の仕事の苦労ぶりを語る描写として、いかに短期間で一冊の本を作るかという逸話が語られるが、この作品自体、かなりピーキーな日程で本になったことが窺えた。


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