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[ SF/ファンタジー ] ゴジラ 昭和29年度東宝映画「ゴジラ」第1作 映画小説 |
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海原俊平 | 出版月: 1984年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 1984年10月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2023/04/12 19:49 |
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(ネタバレなし)
昭和29年8月17日の午後7時。南太平洋から日本に向かう貨物船・栄光丸が、謎の海難事故を起こして消息を絶った。その後も海洋の事件は続発。2年前の明神礁のように海底火山の影響かと思われるが、それこそは日本全国を、いや世界を震撼させる大事件の幕開けだった。 1984年歳末の『(新)ゴジラ(「ゴジラ1984」)』公開に合わせたメディアミックス企画で刊行された、1954年の「初代ゴジラ」の方の公式ノベライズ。 「初代ゴジラ」のそれまでのノベライズ(メディアミックス原作)は、広義のものをふくめて香山滋のものが二つあったが、ひとつは映画に先行して放送されたラジオドラマがベースのシナリオ形式、もう一つはジュブナイルということで、一応は一般読者向けの小説版は当時のこれが初めてだった(そして2023年の現在でも、これが最後で最新の初代ゴジラの小説版ということになる)。 まあ刊行レーベルは、やはり広い意味のジュブナイル叢書といえる、講談社X文庫だが。 著者は海原俊平なる御仁。この一冊以外では全然、聞かない名前だが、たぶん講談社の周辺か、SFまたは特撮ファンダムゆかりの、どっかの業界人かセミプロの別名ではないかと思う。正体が判明したら、ああ、あの人だったのか、とかありそうだ。 で、本小説版の内容は、原作映画とほぼ同じ。95%は映画の大筋をなぞるが、それでも小説の細部では、ゴジラが海上で暴れるオリジナルの描写とか、炎上する東京の大参事をテレビで観て改悛する山根博士の図とか、ゴジラ事件の推移に一喜一憂する市民の叙述とか、恵美子や芹沢博士の踏み込んだ内面描写など、本当に5~10%くらい小説独自の叙述があり、そこがこのノベライズ版の価値になっている(ちなみにあの有名な「もうじきおとうちゃまのところに……」の母子については、この小説独自の解釈で叙述。これを公式設定にしていいのかね?)。 まあオトナも読める仕様とはいっても、あくまでX文庫での刊行だから文章は平易で間口は広く、その分、小説としてのコクはそんなに無いが、評者のように少年時代にNHKの夕方の放映で初めて原作映画に接し、そのまま数時間後に『ウルトラマン』「禁じられた言葉」を観て以来、すでに十数回、劇場やテレビ、パソコンで初代ゴジラを繰り返し再見してきた身には、なかなか興味深かったりする(もちろん、今回の通読も、久々の再読ではあるが)。 ゴジラ小説としては他に、同じX文庫版の『モスラ対ゴジラ』(これは傑作)とか、『VSビオランテ』とか『VSギドラ』とか、小説独自の筆が暴走したとんがったものがいくつもあるので、トータルとしては地味めな本書(X文庫版初代ゴジラ)だが、今回再読してこれはこれで楽しめる一冊と実感。今さらながらに、当時のX文庫でもっと歴代ゴジラ映画の小説を出してほしかったな。 2010~20年代のアニメ版ゴジラのノベライズも、そのうち読んでみよう。特にアニメ映画版の小説版は、かなり評判いいみたいだし。 |