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[ SF/ファンタジー ] 奇相天覚 漫画 |
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高山和雅 | 出版月: 1991年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 1991年10月 |
講談社 1991年10月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2023/03/30 10:17 |
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SFマンガというものは、ちょっと主流から外れた扱いされつつも、それでも一定の地歩を保っているものだ。でも「マニアックなハードSFマンガ」となると、マーケットは限られる。高山和雅といえば、一時講談社モーニング誌で活躍しはしたが、単行本の多くは青林工藝舎(要するにガロ系)から散発的に出ているだけで、作品評価の高さの反面、極めてマイナーな作家にとどまっている。
というわけでハードSFの代表作の「天国の魚」を取り上げるつもりなのだが、まずは小手調べ。モーニングに前半を連載した後で、後半を書下ろしで出した伝奇SFの本作である。メジャーの仕事なので、ある程度キャッチーは狙っている。 辻占で生計を立てる容貌魁偉な天覚は、街で角の生えた男と遭遇する。その男の邪気にただならぬものを感じた天覚は、赤ん坊に生えた角をこの菊池という男の額に移植したことを調べる。菊池の行方を追って天覚は戸隠村を訪れるが、山中にダイダラボッチと呼ばれる巨石遺跡と、それを守護するイズナ使いたちとの、独鈷杵を巡る争いに巻き込まれる。しかしこれは鬼と人類の超歴史的な闘争の最終決着の幕開けだった....舞台は飛鳥からアイスランドへと移り、地球レベルでの地殻変動を天覚は防ぐことができるか? まあこんな話。「暗黒神話」+「ヤマタイカ」といった伝奇SFマンガの王道な雰囲気。しかし、絵柄は大友克洋をサイケデリックにしたような...というと、分かったような分からないような。この超古代のガジェットたちが実に縄文サイケデリックなデザイン、かつ「鬼の因子」の発動による変身が強く諸星流の「あんとくさま」テイスト、さらに「地上最強の男竜」みたいなパースの美もあって、グラフィックな楽しみが強くある。 逆に言えば、主人公の天覚、プロレスラー体格で坊主頭、と読者のいわゆる「感情移入」を期待しないような造型、というのがメジャー作品としてはかなり異色。いやキャラはすべてクールに外面的に描かれるだけで、そこらへんでも「SFの矜持」が窺われる。 まあとはいえ、アクションの連続で話が進んでいくから、スケールの大きさに讃嘆しながら読み進めればいい。そこらへんはメジャー仕事である。ガロ系SFな「天国の魚」だとこういうキャッチーな要素が切り捨てられて、ずっと渋くなるのだが、これを一人の作家の振幅として楽しむべきだろう。 (個人的には伝奇SF次世代の有名作品の「七夕の国」あたりとヒケを取らないとおもうのだがなあ...) |