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[ 社会派 ]
つみびと
山田詠美 出版月: 2019年05月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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中央公論新社
2019年05月

中央公論新社
2021年09月

No.1 8点 斎藤警部 2022/05/20 21:43
“面会室の隣にある待合所で、面会申込書の被収容者氏名の欄に自分の娘の名を書く時、琴音はいつも深呼吸して、少しでも多くの新鮮な空気を取り込もうとする。もしも蓮音と話をすることが出来た場合に、自分の吐く息が汚れていたら可哀相、なんて思う。”

祝福に満ちた親子関係でさえ、ボタンの掛け違え踏み外しが過ぎると、まるで十代の恋愛のように不器用な破滅に向かってしまう。しかも恋愛と違って取り替えが効かない。。。 凄まじいリーダビリティを引き連れ、冷静に強烈に描写される、不幸のDNA(←比喩)に縛られた親子四代の物語。 うち三代「母」「娘」「小さき者たち」の回想リレーで綴られる中、探られるのは、「小さき者たち」が真夏の或る日マンションの一室で餓死するに至った理由の深層。

“私たちは、同じことをした親子。でも、いったい何故、母は私にならずにすんだのだろう。”

「エピローグ」から、息が詰まるほど濃密な思索と行動が飛び出しました。本作は「エピローグ」こそ主軸ではないのか。本篇で抑制した著者の想いがとうとう溢れ出したのか。気の利いたひと台詞さえ刺さること!『ある事』へのモチベーションが急に高まるくだりは泣けました。少しでも良い方向へ展開する様、読んでいて流石に祈りましたね。オープンな感じもする不意のラストシーンは、ううん、何なんだろうなあ。。 更に、続く巻末対談(著者×精神科医)も分厚く深い!

“まったく、違う! そんな区切り方は、まるで間違っている、と蓮音は自身を激しくなじるのだった。”

逸らすな、なんとか工夫して上から襲うんだ、俺たちの心だって重力から逃げられないんだからよ。。

実際には書かれていない、禁忌すべきキーワードがそこかしこに潜んでいます。あるいは凶暴な単純化への陥穽がそこかしこ。それらは山田さんが『敵』として敢えて言外で表現したのかと思います。「小さき者たち」の最期を敢えてきれいごと織り交ぜ描いた優しさ(?)も、もしかしたら同根の理由に因るのかも知れません。 山田さん、小説の形で世に問わずにいられなかったんだろうなあ。 本作は2010年の「大阪二児放置死事件」に材を採ったフイクションです。

「いいですか? 彼女たちの過去も未来も、彼女たちだけのものなんです。他の人間が関われるのは、その時に現在と呼ぶことの出来る、ほんの一瞬だけなんだ」

悪い冗談でなく、「カムカムエブリバディ」の母娘三代物語をどこかしら彷彿とさせる内容でしたが、いっやー、純文の人は容赦無いわー。

“子供たちの寝息を聞きながら死んで行くのは、さぞかし幸せなことだろう。でも、自分の死んだ後に残されたこの子らの心配で、死ぬに死ねないかもしれないな。”  ← これに続くブラックユーモアのバカロジック展開が秀逸と言うか、混乱をよく表していると言うか。

さて帯にある惹句「本当に罪深いのは、誰ーー。」は、ひょっとして『読者が犯人』に挑戦したのか!?なんて匂わせなくもありませんが、実際のところ、果たして。。。。


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山田詠美
2019年05月
つみびと
平均:8.00 / 書評数:1