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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 少年探偵長 作者急逝のため中絶し、横溝正史が補作 |
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海野十三 | 出版月: 1992年02月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
三一書房 1992年02月 |
青空文庫 1992年02月 |
青空文庫POD[NextPublishing] 2014年10月 |
柏書房 2021年12月 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2022/03/17 07:31 |
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(ネタバレなし)
その年の11月。転校したばかりの中学二年生・春木清は、新しい友人で同級生の牛丸平太郎とともに、近隣のカンヌキ山で登山を楽しんだ。牛山と別れて帰路につく春木は、重傷を負った見知らぬ老人に偶然に遭遇。その怪我人を助けようとしたところ、かの老人・戸倉八十丸は親切な少年への感謝の印として何か小さな物体を渡す。実はそれは戸倉老人の義眼で、中にはさる秘密のアイテムが隠されていた。が、春木がその事実を知る前に、重傷の戸倉は空から飛来した怪しいヘリコプターの一味に拉致されてしまう。これをきっかけに春木とその周囲の少年たちは、山中の牙城「六天山塞」に潜む、謎の怪人「四馬剣尺(しばけんじゃく)」率いる山賊一味の暗躍に関わっていく。 昭和24年4~11月号にかけて、東光出版社(手塚治虫ファンには、初期の作品の版元としておなじみ。さすがに評者もその辺はリアルタイムでつきあった訳じゃないけど)の月刊少年誌「東光少年」に連載されたジュブナイルミステリ。そして作者・海野十三の遺作(のひとつ)。 連載中の5月23日に作者が急逝したため、途中からは晩年の海野に深く世話になった横溝正史があとを引き継いで連載を執筆し、物語を最後まで完結させた(当時の連載誌誌上では、海野が生前にすでに最終回分まで完成させていた内容を分載、という触れ込みだったようである)。 なお、前述のように、本作の完成には横溝の貢献のほどが大きく、それゆえ昨年暮れの新刊で、横溝の幻の&珍しめのジュブナイル諸作を集成した一冊『横溝正史少年小説コレクション7 南海囚人塔』(柏書房)の後半に、ボーナストラックとして、連載時の挿し絵復刻のサービス込みで再録された。 (ちなみに、実は評者は、本作の1967年のポプラ社版を数十年前に100円で購入して未読のまま持っていたが、今回、初めて、この柏書房の横溝コレクションの方で読んでしまった・笑&汗)。 本作は海野のレギュラー名探偵・帆村荘六などの登場しないノンシリーズ編。また題名にズバリ、すでに乱歩が十年以上前からスタートしている「少年探偵団」もののエピゴーネンめいたタイトルを採用しているが、中身はそれほどアマチュアの少年探偵たちが活躍するわけでもない。ぶっちゃけ、主人公の春木と一時的に俘囚になる牛山以外の残り3人はいてもいなくてもいいような扱い。 本作の特色はむしろ、素顔を見せない、巨体らしい山賊の頭目「四馬剣尺」の怪人キャラクターの成分と、戸倉老人が守り、山賊一味が狙おうとするとある秘宝がらみの暗合の謎、そっちに比重が置かれている。 そしてその大枠のなかで、実は……的な主要人物の意外な正体などを設けてあるのが一応の評価(オトナの読者には見え見えだけどね)。 個人的には、海野の思いついたあるアイデアを、横溝がさらにもう一段階、掘り下げ、それが効果をあげたような感じで、そこが楽しかった。 ラストの豪快なオチもよろしい。 主人公たちの少年たちを後見する名探偵キャラクター(探偵スター)なども不在で、全体にもうひとつ華がないのはナンだが、戦後直後のジュブナイルミステリとしては、怪人もののスリラー活劇の興味のあり、そこそこ楽しめる一冊。 |