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[ 本格/新本格 ]
「三日で修得できる速読法」殺人事件
若桜木虔 出版月: 1988年05月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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光文社
1988年05月

No.1 5点 人並由真 2022/03/11 14:39
(ネタバレなし)
 情報化社会の現在、多忙な現代人に有益とされる、文章を短時間で読破する速読法。いま、その速読法の教育産業は老舗の「全日本速読学会」と、そこから分派した新興勢力の「新日本速読研究会」が、受講生のシェアを奪い合っていた。そんななか、「新日本」の幹部会員でジュブナイル作家としての実績もある橋本健一郎が出張先の沼津で、とあるマンションから転落死した。状況から橋本は美人の若妻・松倉泰子の自宅売春に応じ、彼女との情交中に泰子の夫・浩也に露見して、慌てて転落死したものと思われる。だがそこに目撃者が現れ、浩也が橋本を殺害したとの容疑が生じた。若者に人気の作家・橋本が買春をしてその果てに死亡というニュースは「新日本」の運営にも悪影響を与える。しかし橋本の秘書だった沢野沙知代は、あるポイントからこの殺人状況に疑問を抱く。

 あまりにもトンデモな題名に興味が湧いて(というかこのタイトルが大ウケして)、読んでみた(笑)。
 文庫書き下ろし作品。 

 もともと著者の作品は「ヤマト」シリーズだの『トリトン』だの『バルディオス』だの『009 超銀河伝説』だののアニメノベライズは山のように読んできているが、フツーのミステリはこれが初読みかもしれん。
 
 全体的には思ったよりはマトモであった(中盤で主人公ヒロインといえる沙知代が、状況の矛盾をつくあたりを<ちゃんと謎解きミステリ上での、ツイスト的な演出>で書いてあるところとか)。
 が、犯人は、悪い意味で丁寧すぎる伏線ゆえに曲がないので、すぐにわかる。あと犯罪の実態や悪事の形成が(中略)というのも興ざめ。
 まあ昭和末期のB~C級ミステリならこんなもんでしょう。

 なお後半にはテレビ局が強引にお膳立てした「全日本」と「新日本」の速読法対決というイベントがあるのだが、ここがラヴゼイの『死の競歩』みたいに謎解き部分と並行して盛り上がってくれればいいなと期待したものの、あんまりワクワクできなかった。書き方がアッサリしているからみたいで、その辺はいかにもこの作家らしい。

 で、途中で「いいのか?」と思ったのは、ミステリマニアの沙知代(当然、速読に長けており、マトモな謎解きパズラーでも一冊30分で読めるらしい・笑)が捜査本部の刑事たちに、橋本の転落死についての内田康夫の実際のミステリのトリックにこんなのがあった、それと同様なのでは? と作品の具体名まであげてトリックをバラしながら仮説を語る。これが実際に刊行されている内田作品まんまのようで、つまりトリックのネタバレ(評者は当該の作品は未読だが、どうもソレっぽい)。これって営業妨害にならんのか? と思った。
 もしかしたら、向こう(内田康夫)の方でも似たようなことをしていて、たがいにからかい合っていたりするのか? まあいいけど(よくない)。

 なお終盤、沙知代と真犯人との対決で、沙知代が犯行の細部について(ひとつひとつの状況を読者に向けて説明するために)仮説を語る。
 だがそれがほとんどヒットし、沙知代の仮説を肯定する犯人の受け答えがほとんどどれも「ああ~」で始まるのには笑った。数えてみたら12回もある(笑)。作者が多作のベテラン作家なのにいつまでも二流なのは、こういう雑な文章(というか小説)の作り方にも一端があるとも思う。


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若桜木虔
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