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[ トラベル・ミステリ ] 伊豆・石廊崎殺人岬 好色探偵・甲斐正樹&美人助手・朝日奈真理子 |
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山口香 | 出版月: 2002年08月 | 平均: 4.00点 | 書評数: 1件 |
廣済堂出版 2002年08月 |
No.1 | 4点 | 人並由真 | 2021/12/29 06:28 |
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(ネタバレなし)
新宿の歌舞伎町に事務所を構える30歳の甲斐正樹は、転職を繰り返した末に私立探偵になった男。酒と女が好きな怠け者で女房にも逃げられて独身だが、今は大学院生のお嬢様でしかも美人の朝日奈真理子(マリー)が助手兼恋人として脇にいる。そんな甲斐のもとに24歳のデパートガール・北村聡美が、旅行に出たまま帰宅しない同年齢の幼馴染で同僚の野村芳江の行方を捜してほしいと依頼に来た。そしてその頃、石廊崎の海岸では、身元不明の30代半ばの美女が何者かに殺された死体として発見されていた。 作者、山口香は、Wikipediaの当人の記事項目によると1946年生まれ(もちろんいま話題の女性柔道家とは、別人である)。 wikiの同記事にリストアップされているだけで115冊もの著作があるが、ほんとんどがエロ小説。ただし一部、アリバイ崩しのトラベルミステリも執筆しており、しかもシリーズ探偵ものらしいというので、ちょっと興味が湧いて一冊読んでみた。 ちなみに本作なんかもタイトルだけ見るとあくまでフツーの旅情ものミステリっぽいのに、Amazonではこの作者のそういったミステリっぽい諸作も、ほとんどがアダルト小説分類されている(本作は現状で例外だが)。 これは作者の名前、即、そっちのジャンルに区分けされてしまうのか? とも思ったが、実際に実作(本書)を読んでみると、やはり味付け程度にはエロ描写も盛り込んであった(事件関係者の一部が、ある種のヘンタイである。ちなみに主人公コンビはすでに体の関係があるが意外にポルノ描写は控えめ。いちゃラブセックスの濡れ場は最後の方まで出てこないのが、仲々おくゆかしい)。 他の作家の作品でいうなら、評者が少し前に読んで本サイトにレビューも書いた水野泰治の『武蔵野殺人√4の密室』みたいな感じ。ただし向こうは過剰なアダルト描写があっても、それ以上に謎解きミステリ&ある種の技巧派ミステリとしてしっかりしていたが、こっちの山口作品は、ミステリとしてはほとんど何もない(……)。 石廊崎で起きた美女殺人事件を静岡警察が主体になって足で追いかけ、一方で甲斐&マリー側が失踪人探しの聞き込み周りをして回る。やがてその二つの流れが本当に順当に交わるだけ。読み手の前にまったく謎は提示されないし、当然、推理する余地のかけらもないよ。 (行方を絶った女性・野村芳江の件は、とりあえず終盤まで引っ張られるが、これは特に不可思議な謎の興味として語られるものでもなんでもない。) トラベルミステリとしても、旅行ガイドからそのまま引き写したようなウンチクを、近代文学専攻のヒロインのマリーがくっちゃべり、甲斐の方がふんふん聞くだけであり、これはある意味スゴイ。 一作読んだだけでモノを言うのはなんだけど、多作で書き飛ばしているせいか、文章も雑で、序盤で登場人物が死体を見つけて「あっ!? 女が死んでいる!?」と素で叫ぶのからして、リアリティがない。もし俺やあなたが実際のそういう状況になったら、そんな物言いすると思うか?(笑) さらに依頼人の聡美が「鈴木由美」という同じデパートの女性を情報提供者として甲斐たちに紹介するが、その登場直後「由美子」と地の文で書かれたりする(う~ん)。ほかに句読点の脱字もあったし、担当の編集も手抜きか。 ただまあ、「好色探偵」「美人助手」と、地の文でそれぞれの本名を差し置いて妙な? 肩書の方で主格を叙述される主人公コンビは、ちょっとだけヘンな愛嬌もある。 大体、甲斐がまったく探偵の職務として役立たず、まだ真理子の方が調査役として有能というのは、狙った設定だろうけど、ほんのちょっぴりユカイに思えないでもない。 作者の力量というか、ミステリ創作の姿勢はなんとなくわかったので、もうよほどのことがない限り、他の作品は読まないだろうと思う。 けれど、どっかのゲテモノ食いミステリマニアのウワサとかで「いや、山口香のミステリ作品でも、アレはちょっといいよ」とかなんとか聞こえてきたら、また性懲りもなく手を伸ばしてみたくなったりしちゃうかもしれない(汗・笑)。今のところの気分は、そんな感じで。 万が一、また次のこの人の作品を読むときは、今度は5点くらいはつけられればいいなあ、と。 |