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[ 本格/新本格 ]
疑問の三
橋本五郎 出版月: 不明 平均: 4.00点 書評数: 1件

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No.1 4点 人並由真 2021/10/10 06:29
(ネタバレなし)
 昭和の初め。その年の10月30日と11月1日。さらには11月3日。大阪の湊町公園の周辺で、ほぼ連日、殺害された男女の死体が一人ずつ発見される。死体はみな身元不明で、しかも全員が手に明治44年製の一銭銅貨を握りしめていた。三人目の被害者の死体を発見したのは、新聞配達の青年コンビ、上月三郎とその友人の田南。そして後者の田南は、かねてより新聞販売店で優れた推理力のアマチュア名探偵として知られていた。警察の捜査によって被害者の身元が判明し、事件は東京にも及んでいく。そんななかで田南は独自の活動を進めるが。

 昭和7~8年に新潮社からリリースされた、戦前では有数の書き下ろし新作叢書「新作探偵小説全集」の第五巻として刊行された長編。ほとんど幻の作品ということは知っており、当然そうそう読む手段もないが、「幻影城」の1977年11~12月号には前後編で完全再録されている。ということで、少し前からそれで読もうと思っていながら蔵書が見つからなかったが、ようやく昨日、どっかにいっていた11月号の方を発見。前後編が揃ったので、とびついてイソイソと読んだ。

 ただまあ、出来は……まあ……うん。

 およそ連日、ほぼ全く同じ場所で連続殺人が起きる(あるいはそこに死体が出現する)という設定、手中の硬貨の意味、などの謎の提示は確かに魅力的だが、一方で前者は警察の現場保存や事件後の巡回などを考えれば無理がありすぎるし、後者もどうせ悪い意味で(中略)なネタだよね? と大方の察しがつく。
 なにより作者のノープランさが明白な作りで、せっかくの一応は面白そうな趣向を掘り下げる気が皆無で、話を良くない意味で捜査小説の方向に広げていき、規定の原稿枚数を消化している感じ。
 当然のごとく出来たものはおそろしくとっちらかった内容で、作者的には、この作品のどこをセールスポイントにしようと思ったの? と真顔で訊いてみたい仕上がりであった。

 実際、再録した「幻影城」も、ほかの長編再録の際にはおおかた「この作品が日本ミステリ史でどういうポジションにあるのか」「現代の読者にとって、改めてどういう価値を持つのか」の解説を設けているのに、この作品に関しては誰もホメる言葉も再紹介の文句も用意できなかったのか、ものの見事にノーコメントなんだよね。お里が知れるってモンです。

 でまあ、犯人の設定に関しては、途中で一応はフェアに伏線を張ってあるので、それでそのまま推察がつく。あと最後のもうひとつのサプライズも「うんうん、デスヨネー」と見え見えであった。
 
 Twitterなんかを覗くと21世紀の現在でも何らかの形で復刊を望む声もちらほらあるんだけれど、正直、出しても120%売れないだろ、コレ。
 というか50字くらいの字数で、新刊の文庫の帯にこの作品のセールスポイントを書けと言われたら、実際のところ、アタマを抱えるよ。
 まあ「日本ミステリ史に残る叢書『新作探偵小説全集』の幻の一冊が甦る!」とか、そーゆー<ウソでない惹句>なら書いてもいいか。

 評者が「幻影城」本誌の誌上復刻長編企画の枠内で読んだのは『鉛の小函』『小笛事件』『臨海荘事件』に続いてこれが4本目だと思うけれど、残念ながらツーランク下回って段違いにツマらなかった。
 名前だけは響いていた作品だから、それなりには楽しめるだろうと期待値が一定以上だったのも悪かったのかもしれない。

 いや、それは読み方が悪いのだ、俺がしっかり読んで楽しんでやる、という勇気あるお方、ぜひとも挑戦してみてください。止めはしませんので(汗)。


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