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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 昨日への乾杯 英国外務省諜報員トーマス(トミー)・エルフィンストン・ハンブルトン |
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マニング・コールス | 出版月: 1964年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
新潮社 1964年01月 |
No.1 | 7点 | おっさん | 2021/03/03 12:26 |
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怠惰なミステリ読者に、投稿への勇気づけを与えてくれる、人並由真さんへ――
英国のスパイ小説作家マニング・コールズ(フランシス・オーク・マニングとシリル・ヘンリー・コールズという、男女コンビの合作ペンネーム)の、第一作 Drink to Yesterday(1940)の邦訳で、新潮文庫から昭和39(1964)年に出ています。 まさか、無節操に絶版ミステリを漁っていた若い日に、読むだけ読んで忘れるともなく忘れていた本書に、ふたたび目を通す日が来るとは。ストーリーなんかほとんど忘れていますから、まるで初読のように楽しめました (^^♪ 1924年の、謎めいた検視裁判を描いた導入部のあと、時代背景は第一次世界大戦のとば口の日々へと戻り、スパイに憧れる片田舎の少年ビル・ソーンダースの成長物語が描かれます。軍隊入りした主人公は、語学の才能を諜報部に評価され、敵国ドイツへ潜入し任務にあたることになります。そのバックアップとして同行するのが、学生時代のビルの教師であり、じつは外務省の人間でもあった、トミー・ハンブルドンであり、二人は、ドイツ側の細菌兵器の開発阻止や、ロンドン爆撃を目的とした飛行船の破壊工作を実行していきます。 しかし、痛快なサクセス・ストーリーというわけではなく、任務の遂行には苦みがともない(「国家」のためというエクスキューズが、まだ有効な時代ではありますが)、これはちょっとネタバラシになってしまうのですが……物語の後半で、トミー・ハンブルドンは海の藻屑と消えます。 ひとりイギリスに帰国したビル、もう、スパイに憧れていた昔日の純真な少年ではない彼を待っていたのは―― 主人公が達成すべき大目標がクライマックスにおかれる、という、王道的なお話づくりではないので、全体が、エピソードの連なりに感じられ、散漫な印象も受けます。それでも、最後まで読むと、うまくまとめたな、と。ラストの3行で、導入部へ戻るんですね。 ただまあ、ミステリ・ファンとしては、あの検視裁判の評決は納得できないなあ。どこが「過失死」やねんw 発表年代的に、どうしてもエリック・アンブラーやグレアム・グリーンの陰に隠れて損をしていますが、それでもスパイ小説好きなら、探して読んで(シロート臭い翻訳を我慢してでも)損のない一冊だとは思います。 なお、作者の第2作 Pray Silence(米題 A Toast to Tomorrow)は本書の続編的内容なのですが、訳出は前後してしまって、新潮文庫から5年前に『殺人計画』として刊行され、その奥付で原題をDrink to Yesterday と誤表記されるという、とんでもないポカがありました。いちおう、本書の訳者あとがき(金杉佐和子)では、「著者については、まだあまり我が国に紹介されていないが、さきにこの文庫から出た、この作品の続篇ともいうべき「殺人計画」(原名“Toast to Tomorrow” 尾高京子訳)に解説されているので、ここでは詳しく述べない」と書かれていますが、上述のポカの件はスルーされています。 もし、これからこの“連作”を読んでみようという奇特な向きがあれば、本書『昨日への乾杯』のほうから手に取ることを強くお薦めします。 |