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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
幕末
司馬遼太郎 出版月: 1963年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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文藝春秋新社
1963年01月

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2001年09月

No.1 7点 クリスティ再読 2021/01/09 10:49
人並さんが司馬遼太郎「古寺炎上」みたいなレア作を発掘されていて、人並さんらしい着眼点に敬服するのですが、評者は逆に有名作の中から、一応「ミステリ?」となるような作品を見つけてみようと思う。
そうすると、殺人を主題にした小説、と広めに定義した場合には、幕末の暗殺事件を題材にしたこの短編集は、一応「歴史ミステリ」としていいんじゃないか、なんて思う。
「暗殺だけは、きらいだ」で始まる「あとがき」のなかで、

歴史書ではないから、数説ある事柄は、筆者が、このほうがより真実を語りやすいと思う説をとり、それによって書いた。だから、小説である。

と司馬が言うように、実際にはかなり史実から離れた創作性も高いものもある。たとえば「花屋町の襲撃」に土居通夫が参加した、という話は司馬のこの短編以外には見当たらないし、維新後土居が大阪に錦を飾ったときも、「権知事」どころか幹部職員ではあるが「権少参事」である。
いくら幕末攘夷の熱狂の渦中にあるとはいえ、一方的にインネンつけたようなバカげた暗殺話(「冷泉斬り」「死んでも死なぬ」)も多い。こと問題が「殺人」のわけだから、司馬が出典として取材する、明治に生き延びた「元志士」の懐旧談にどこまでの真実味があるか、というと自己弁護やら美化やらで信用ならないようにも感じる。そういう意味でも「ミステリ」なのかもしれないなあ。

評者前に土居については小林一三関連で調べたこともあって妙に親近感がある。坂本龍馬の仇討として、海援隊残党が新選組を襲撃した話の「花屋町の襲撃」は、男ハーレクインとして名作に思う。志を持ちながら人脈がないために市井に隠れた主人公が、自分の真価を認めてくれた有名人の縁で引き立てられて、手柄を立てて立身する....いやこれ「男の夢」、「男シンデレラ」としかいいようがないと思うんだよ。司馬遼太郎だって、大衆小説家としてこんなベタなやり方も使うわけで、「すべて史実に基づいて」とか真に受けると恥をかくこともあるさ。

「花屋町の襲撃」に土居を絡ませたのは司馬の創作だが、要するにこの短編集では、「三流の志士」の目で汚れ仕事主体の幕末事件を眺める、という語り口がなかなか成功しているわけである。その完成形が、明治の顕官になり昭和初めまで生き延びた田中光顕を狂言回しに、吉田東洋暗殺を扱った「土佐の夜雨」、計画倒れの大阪城襲撃「浪華城焼打」、倒幕が成ったあとに敢て「攘夷」として英国公使の行列に斬り込んだ「最後の攘夷志士」の連作になる。

長生きの術をいかにと人問はば 殺されざりしためと答えむ

と回想する、凡庸極まりないが「生き延びた」ためだけに栄爵を得た男の目で語るのが、極めて皮肉な話でもある。そういう維新攘夷の熱狂に対する司馬の醒めた視点が評者は面白い。


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司馬遼太郎
1963年01月
幕末
平均:7.00 / 書評数:1
1962年01月
古寺炎上
平均:4.00 / 書評数:1