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[ 短編集(分類不能) ] 探偵青猫 漫画 |
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本仁戻 | 出版月: 1999年08月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
芳文社 1999年08月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2020/03/22 07:23 |
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さて久々に漫画でミステリ。「探偵青猫」というくらいだから、主人公の青猫恭二郎は太正か照和の初めの男爵様、かつ道楽で探偵をつとめ、燕尾服だろうがタキシードだろうがバッチリ決まる男前である。
だからだ、虎人君 山ほどの依頼のうち僕が手掛けるに値する知的な事件がどれだけあると思う? 心底僕の知的好奇心を慰めてくれるものじゃなきゃイヤだよ 例えばコナンドイルと江戸川乱歩と横溝正史を足して、夢野久作と中井英夫で割り、モンキー・パンチをかけたようなヤツ とまあ、こんな我儘なノリ。要するにBL探偵である。 考えてみると意外に男性向けで名探偵モノってウケづらいのだ。オトコは一般に、頭のイイ系のヒーローが嫌いなんだな。逆に女性向けだったら自分と比較しないから、男爵ボンボンで名探偵で男前はアピールポイントだ。なので本作徹底的に「女性の嗜好」に合わせて仕立て直した名探偵モノ、でしかもゼロ年代にBLがナミの少女漫画を超えたくらいに充実したドラマを生み出していった中で登場した作品である。作者は本仁戻。BLの枠を超えたアクションやバイオレンスを描いてショックを与え、しかも今風のライトさでなくて古式ゆかしき耽美の香りのする、BLの中でもヘヴィな異端作家。アクションも描ければビアズリーな黒ベタの美学も備えた、華麗な画風...と結構なコア向け作家の代表作になる。 今のところ6巻まで出て止まっているが、別に完結、というわけではないそうだ。内容はシリアスなミステリの回もあれば、能天気なギャグの回、恋愛主体の回、それから青猫の過去を巡る話など、バラエティに富んでいる。小林少年を巡って明智先生と怪人二十面相が恋の角逐を繰り返す乱歩オリジナルの裏設定を察するのは珍しいことじゃないが、本作だと青猫の宿敵である怪盗硝子蝙蝠は、青猫を「仕込んだ」親代わりの恋人で...という過去がある。 今のところの最終話になる「ネペンテスの袋」では、さらに硝子蝙蝠の元愛人の女賊ネペンテスが絡んで、明智vs二十面相vs黒蜥蜴の三つ巴で、命懸けのラブゲームを展開する、なんて豪華な話になる。しかもこのネペンテス、「老いを感じた黒蜥蜴」であり、食虫植物のように自らは動かずに男を惑わして自らを捧げるかのように財宝と命を奪う..というオリジナルも三島も超えた脚色がある。青猫も硝子蝙蝠もこのネペンテスに惑わされ、あるいは惑わされたフリをしつつ、互いを虜にしようと角逐する。ここではもはや性別も攻め×受けも、生も死も流動的な耽美界のドラマとしか呼びようもない世界になる。 「ネペンテスの袋」は極端にヘヴィな作品になるけども、助手の虎人少年との出会いを描いた2巻の「贋作家族」、4巻で歌舞伎の女形を巡って舞台上で起きた心中事件の謎を解く「鵺狐」、3巻で失踪から帰ってきた青猫が叔父に奪われた男爵家を取り戻す経緯を描いた「青少年」など、ミステリ的興味もなかなか本格的。 けどね、BLだからね、男同士の絡みももちろん呼び物のひとつだからね(苦笑)オーケーならどうぞ。 |