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[ SF/ファンタジー ] ぽっぺん先生と笑うカモメ号 ぽっぺん先生シリーズ |
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舟崎克彦 | 出版月: 1976年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
筑摩書房 1976年01月 |
No.1 | 7点 | 雪 | 2020/03/09 08:19 |
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「日食の日における渡り鳥の太陽磁石の方向」論文での博士号獲得を狙い、渡り鳥銀座といわれる多良湖岬へ旅立った独活(うど)大学の生物学助教授、通称ぽっぺん先生。だが皆既日食のその日、渡り鳥観察のために借り切った「シーサイドホテル・タラコ」二十四号室は突然舟に変貌し、先生は部屋ごと大海原に放り出されてしまう。だが先生はすぐに気付く。いや、これは部屋じゃない。自分は出窓のところに置いてあった、リモコンのヨットに乗っているのだ。いったいこの舟はどこへ向かうのか・・・
ヨットに乗り合わせたワライカモメの話によれば舟は今、日食の影を追いながら潮境をたどっているらしい。東東の方角、信じた者すべてが向かうというまぼろしの島、アルカ・ナイカ島。異常行動を起こした動物たちは皆湾流に乗り、そこを目指しているのだ。 だれの目にも見えない一本の筋、理想郷へと通じる地球のすきまに落ちた自分たちに、救助の手は届かない。磁石の針は円盤のなかをめまぐるしく回転し、いっかな一定の角度に落ちつかない。先生はついにこれまでの世界を捨て、しゃべるカモメと共に願いがかなうという東東の島、アルカ・ナイカへ赴く覚悟を決めるが・・・ 不思議な世界に迷い込むうらぶれた万年助教授の冒険物語、ぽっぺん先生シリーズ第3作。1976年発表。〈ぽっぺん〉というのはあだ名で本名は不詳。いつも履いているつっかけのかかとから音がすることからそう呼ばれています。40過ぎても独身で、学者の父親が遺した古い屋敷で老母「バアサン」との二人暮らし。およそ児童文学らしからぬ設定のシリーズです。 本書はその中でも人気の高いもの。冒頭には福永武彦訳のランボオの詩「酔いどれ船」が掲げられ、さあ航海が始まるぞと思いきやイカダに乗った珍妙な生き物たちが現れて怪異の先触れを務め、魔の時刻の訪れとともに空と海は動物たちの幻影に埋め尽くされ、最後にはヨットに圧し掛からんばかりの黄金色にかがやく巨大な帆船「黄金の悪魔(17世紀の英国国王チャールズ一世が造らせた第一級戦列艦「海の君主号(ソブリン・オブ・ザ・シーズ)」のこと)が現れます。先生はこの豪華船に乗り移り、サバトの儀式が執り行われるなか悪魔たちと命を賭けた闘いをすることに。 中盤はオヤジギャグというか昭和テイストのダジャレに彩られてますが、序曲・第1~4幕・終曲という構成で分かるようにミュージカル形式と見た方がいいですね。よくぽっぺん先生とワライカモメとの切ないラブストーリーと言われますが、作者がほんとうに書きたかったのは魔王ルシフェルの一連の独白だと思います。 「なぜだ。人間どもはいつも一千億の欲望でぎたぎたとにえたぎっているのに、その願いをかなえてやろうとするおれたちを、なぜ罪人あつかいするのだ」 (中略)「しかし、もういうまい。おれたちは地球を捨てたのだ。人の姿に身をやつし、ひと夜のサバトをらんちき騒ぎですごしたあとは、魔性を捨て、すべてを忘れ、一匹の野のけものとなってあたらしい世界へ踏みこむのだ。あこがれの地、アルカ・ナイカで」 子供の頃は読後感イマイチだったんですが、今読み返すとムチャクチャ面白いんですよねこれ。大人の書いた大人のための童話。周囲にあれこれ言われるのがイヤなのか、児童文学に偽装してヘンなの書いてる人が結構いるから油断できません。 人間どもに見切りをつけ、まだ見ぬ新世界に旅立つ悪魔たちという、とんでもない主題の作品。点数は惜しくも8点には届かず、7.5点。 |