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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
柳生武芸帳
五味康祐 出版月: 1956年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1956年01月

新潮社
1962年01月

徳間書店
1966年01月

新潮社
1981年05月

新潮社
1993年12月

文藝春秋
2006年04月

No.1 7点 2019/10/27 04:59
 昭和三十一(1956)年二月、一般週刊誌の先駆けとして発刊された雑誌『週刊新潮』に、柴田錬三郎の「眠狂四郎無頼控」と併せ創刊号から掲載された時代小説の金字塔。1956年2月19日号~1958年12月22日号まで連載の未完作品。Wikipediaでは「あまりにも錯綜したストーリーであり、連載中断。その後の作者死去のため未完に終わった」 とバッサリ切り捨てられていますが、内容はそこまで複雑という訳でもない。
 徳川二代将軍秀忠の時代、後水尾帝に輿入れした女(むすめ)和子は高仁親王・若宮の二皇子を産むが、皇室に徳川の威勢が及ぶことを怖れる天皇は密かに将軍家指南役・柳生宗矩に命じ皇子たちを死に至らしめる。宗矩はこれを実行した柳生一門の名が記された巻物を保身のため三巻に分かち、それぞれを帝・柳生・そして柳生分派の佐賀藩主鍋島勝茂に納める。巻物「柳生武芸帳」には一筋縄ではいかぬ謎が隠されており、また全て揃えねば暗殺実行犯の名は明らかにならない。
 次の三代家光の御世、この武芸帳を狙い柳生石舟斎の相弟子である唐津藩の武芸者・山田浮月斎に波多氏の血を引く双子の忍者、霞多三郎と千四郎の兄弟を加えた陰流一派が動き出し、これに公卿方の武芸帳保持者・中ノ院大納言通村の実子道長が絡んで、新陰流VS陰流VS公卿方の三つ巴の巻物争奪戦が始まる――というのが主なあらすじ。
 道長は浪人・神矢悠之丞と名を変え、天下の御意見番・大久保彦左衛門邸に居候する。大久保屋敷には柳生の巻物を狙う霞兄弟も浪人として紛れ込んでいる。暗殺事件に絡んで上野の寛永寺に幽閉されている中ノ院大納言を巡り一騒動あったのち、柳生宗矩は三男宗冬に人工の義歯を付けさせる「くの一の術」を施し、公卿方の武芸帳を奪わせる為、兄の十兵衛と友矩を護衛に付けて東海道を京へと向かわせる。それを追う霞兄弟との間に知恵伊豆こと松平信綱の追っ手も加わり、さらに道中で暗闘が繰り広げられる――
 この争いが京都・宇治橋での弟子たちを従えた宗矩VS浮月斎の全面対決で一応収束し、さらに第二部として将軍愛妾・於万の方(神矢悠之丞こと道長の元恋人)の江戸城からの突然の失踪に続き、秀吉時代からの恨みを含む朝鮮人たちの存在が明らかになる所で物語は終わります。
 基本巻物の奪い合いですがとにかく登場人物が多い。春日局・天海僧正・宮本武蔵・松平信綱あたりはワキですが、多三郎と恋仲になる永井信濃守の娘・清姫(知らずして元武芸帳保持者)や配流された家康の六男・松平忠輝の軍師である日華蓮真、それに尾張の柳生兵庫(長女が鮮人・柳生主馬と縁組)もこれから本格的に関わってきそうな雲行き。よく書かれる竜造寺一族の遺児・夕姫はそれ程大きな役回りではありません。まあ作者が風呂敷広げまくったとこで早死にしたので、今では類推しか出来ませんが。
 読み辛いのは各人物の登場後、「こいつはこんなに凄いんだぜー」という挿話が原稿用紙十枚も二十枚も語られるから。典拠も非常に多く、これらの要素がしばしば流れを断ち切ります。週刊誌でこれやってよく正当評価されたもんだ。確かに格調高いけど、昔の読者は辛抱強かった。
 立川文庫タイプの講談を一新し、中里介山「大菩薩峠」と現代剣豪小説を繋ぐ作品。チャンバラはスピード感がありますがあんま数はなく、それよりもその場その場の危機を躱す立ち居振舞いの方がメイン。「柳生の兵法」ちゅーやつですね。そんなこんなでなかなか読むのに苦労しました。


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五味康祐
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1956年01月
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