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[ ハードボイルド ]
警察庁私設特務部隊KUDAN
特務部隊KUDANシリーズ
神野オキナ 出版月: 2019年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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徳間書店
2019年06月

No.1 6点 人並由真 2019/09/30 20:44
(ネタバレなし)
 32歳の公安の警部、橋本泉南は、政治的な事情から日本国内での処罰を逃れた犯罪者のロシア人を殺す。相手は、橋本が自分の娘の様に思っていた少女とその母親をふくむ十数人の日本人を殺した通り魔だった。その件の懲罰人事から巡査長に降格され、書類作成の事務役を強いられていた橋本は、かつて自分の上司だった今は警視監の栗原正之に呼び出される。栗原が橋本に求めた職務、それは司法機関の圏外にある悪党や裏社会の問題に対応する超法規組織、形式上は闇の自警団といえる特殊部隊の創設だった。

 おお、待望の神野版『ワイルド7』だ! と喜び勇んで手に取った(この作者がどのくらい原典の作品に深く熱く傾倒しているかは、一時期のTwitterなどを覗けばすぐに分かる)。
 ただしまあ、あの名作『ワイルド』が、いかに1969年の連載開始時~第一期終了の1970年代後半には鮮烈なアクション漫画だったとはいえ、さすがにそれをそのまま21世紀の一般向け、大人向けの娯楽読み物に再生することはできないということで、作者なりに相応に、作劇上&テーマ上のファクターは増補されている。その分、原典コミックのダイナミズムと独特の叙情性は相対的に希薄になってしまっている。まあ、この辺は仕方ないね。
 
 油断してると神野先生の大好きなSMポルノ描写は隙あらば飛び出してくるし、悪党はぶっ殺される大物も弱者をいじめる社会悪的な小物連中も外道のゲス揃いだし。その辺の生々しさは、かつて大藪春彦が野性で、西村寿行が本能で描いていたドス黒さを、神野先生の場合は好青年の顔の下に潜めた心の闇に依存して書きまくっている感じ。この作品を楽しめるかどうかは、その辺をどう娯楽読みものとして受け止めるかという読み手の構えによっても大きく変るでしょう。
 一方で橋本が集めていく主人公チームのメンバーが、集団ものらしくそれぞれの役割分担に応じているのはいいんだけど、漫画チックな殺人技量のキャラクターもいれば、きわめて最後まで普通人に近いタイプのメンバーもおり、この辺も原典『ワイルド』の「差別化された特殊技能のメンバー」(長いシリーズ展開のなかにはちょっと曖昧な面子もいたけれど)とは少し違う。むしろ今回は、闇の仕事を早く自分の中で消化できたものと、最後までそうでなかったもの、の差別化に文芸の比重を傾けており、その辺が主人公側のドラマの大筋にからんでいく(ネタバレになるので、あまり詳しくは言えないけれど)。
 
 それと本作の主題のひとつは、社会的弱者がいとも簡単に犯罪者に転向しやすくなってしまった現代21世紀の日本国内の社会状勢で、貧富の格差、各種ハラスメント、net文化が加速させる承認欲求の肥大という心の闇……などなどがしつこいくらいに書き込まれており、その辺をマジメに受け取ると、本当にもはやこれは爽快なアクション活劇ではない。反吐が出そうなくらいに地味に嫌な描写が連なっている(まあ決して新鮮でも、特に目新しい視線からの叙述でもないんだけれど)。
 でもまあ、この辺の、社会的弱者のどうしようもなさ、辛さ苦しさに目を向けた上で、それでも罪もない人に八つ当たりしちゃいけないんだよと極めて真っ当なことを言う甘やかしの無さも、この作品の力ではあるね(言い換えるなら、お題目的に掲げられる正義への懐疑としては、必要十分な描写がある)。
 これから読む人は、いろんなものを覗き込み、それぞれのポジションで作者の言いたいことに向き合いながら、最後の頁を閉じればいいわな。個人的には決して新しいものは貰えなかったけれど、忘れてはいけないことは再確認させられた感じ。

 最後に、本作は地味な? 力作だとは思いますが、担当の編集の仕事もふくめて推敲が甘いのが残念。356頁の6行目は、ああいうシーンだから筆が乗ってしまったのかもしれませんが、さすがに見落とすにはマズいとんでもないミスでしょう(汗)。


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