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[ ハードボイルド ] 探偵物語 赤き馬の使者 工藤俊作 |
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小鷹信光 | 出版月: 1980年02月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 1980年02月 |
幻冬舎 1999年02月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2019/08/28 18:53 |
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(ネタバレなし)
「おれ」こと新宿の私立探偵・工藤俊作は、匿名の人物の依頼で、現金二十万円と現地への航空券が同封された封筒を受け取り、北海道河東群の鹿射(しかうち)町に向かう。依頼の内容は、土地の大地主で酪農家・安藤清蔵の息子・誠の身上調査だった。まだ二十歳の若者、誠の調査を難無く終えた工藤だが、彼はその夜、ホテルで謎の三人の暴漢に襲われる。病院で治療を受けた工藤は、襲撃された理由が今回の調査に関連すると推察。改めて鹿射町と安藤家に接近するが、そこで工藤は、8年前にこの地で死亡した彼自身の両親、そして妹に関連する過去にも向かい合う事になる。 時代を超えて支持される、故・松田優作のテレビシリーズ『探偵物語』。同企画に原案(文芸設定上の大綱)を提供した小鷹信光が、その設定の大枠だけを共通するものとして書いた小説版の第二弾。だから原作ではなく、あくまでメディアミックス企画の小説版である。 主人公・工藤俊作は、文芸設定上こそ名前も年格好もテレビ版と同じだし、テレビ版で活躍したセミレギュラーの女弁護士・相木政子や、工藤と同じビルに住むお騒がせ女子コンビのナンシーとかほりも登場するが、主人公の工藤の性格や言動はかなり、他のサブキャラたちのそれらも相応に、テレビ版と小説版では異なる(ただし本作では、ナンシーとかほりは実質的に欠場)。 まあ世代人のアニメファン、漫画ファンなら、東映動画版とコミック版のゲッターチーム(『ゲッターロボ』)、あれくらい同じ名前で同じ大枠ながら実質は別もの、という感じに思えばよいかも? それでごく私事ながら、評者はこの夏、7月いっぱいで閉館するというので池袋のミステリー文学資料館に足を運び、そこで半日、貴重な資料を見てきたが、同施設で手に取った一冊の中に、新保博久教授が編著の私家製ミステリファンジンがあった。それでその誌面には十年単位で20世紀~21世紀の切り替わり時期の歴代国産ミステリベスト作品が列記されていたのだが、1980年度の新保教授のベストワンがこの作品であった。 おや、これってそんなにスゴイ作品だったのか!? そういえば先日、古書店で幻冬舎の文庫版(1999年版)を100円で買ったな、と思って取り出し、少し前に読んでみた。 (実は元版(1980年のトクマノベルズ版)も昔買っているのだが、そのまま家のどっかに今も眠ってる。ただし文庫版は、元版から20年近くの歳月を経た当時の作者によって総数200箇所近くの改訂がなされ、定本として刊行されたそうだから、これから一本の作品として読むならこっちだろう。) 物語はのっけからかなり苛烈なバイオレンスシーンで幕を開け、物語の随所にも謎の敵の襲撃を再度受ける工藤の応戦図、さらには複数回に及ぶカーチェイス&アクションなど、かなり動的な要素を盛り込んでいる。ただしあくまでポイント的に物語の緊張を促すもので、アクションやバイオレンスでストーリーが停滞することはなく、ひとつひとつの局面ごとに物語のベクトルが明確になっていくのは流石ではある。 決して軽い作品ではないのだが、良くも悪くも気がついたらもうクライマックスという感じの加速感もあり、その辺をどう見るかで評価が変る感覚もある。 (21世紀に隆盛する分厚いエンターテインメント長編作品の作法を、もし小鷹がこの時点でものにしていたら、それはそれでこの作品に似合っていたんじゃないか、とも思うんだけど。) いずれにしろ、ミステリ的には終盤に相応に大きな仕掛けが明かされ、作中のリアルとしてはかなり際どい……実際にそういうのって成立しうるかな? とも思ったが、人物関係の要となるキーパーソンたちがそれなりの覚悟でいれば、ぎりぎりの危うさの中でこの状況は保たれたかもしれない。そう肯定的に読み込むなら、国産正統派ハードボイルド小説としても、ある種のギミックを導入したミステリとしてもこれは確かにそれなり以上の佳作~秀作ではあろう。個人的には第一作よりずっと面白かったが、向こうは本当に大昔に読んだので再読すればまた印象は変るかもしれない。 あと、あくまで勝手な要望や感想を言わせてもらえば、最後の最後のどんでん返しは、やや<(中略)作品の図式>に引っ張られすぎた嫌いがあること、それから事件の実相が工藤本人の過去にからむ趣向は、この第二作で本当に必要だったのかという事。その二点が不満というか、こだわり。 特に後者は、シリーズが四冊か五冊書かれた時点でのネタでも良かった気もするが、これはなかなか企画上の背景も込めて、本シリーズを続発できなかった当時の作者の判断だったかもしれない。もし存命中に本作のメイキングについて語っているエッセイなどあれば、読んでみたいところである。 最後に題名の「赤き馬」とは、工藤が北海道内で足として使うレンタカーが派手な真紅のスカイラインという事と、もうひとつは作品の後半で明かされるある事象のダブルミーニング。ネタバレは厳禁だが、これくらいまでならいいでしょうか。 |