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[ ハードボイルド ] 白昼の曲がり角 私立探偵・北村樟一 |
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島内透 | 出版月: 1964年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
光文社 1964年01月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2019/01/03 15:36 |
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(ネタバレなし)
東京オリンピックを目前に控えた1960年代。江戸橋に事務所を持つ私立探偵・北村樟一(しょういち)は、ある日、岩田という中年男に出合う。何となく胸襟を開き合う二人だったが、その岩田は何らかの罪科で3年間の服役を終えたばかりだった。その二日後、北村は岩田から仕事の依頼を持ちかけられるが、当初はその内容はまだ未詳であった。一方、北村の元には、東京の中央郵便局の私書箱を介した別の匿名の依頼人から、一人の少女の動向を半日だけ探ってほしいという、速達の文書での奇妙な依頼がある。後者の依頼には消極的な北村だったが、彼は結局は文面に指示されていた少女を尾行。北村はいくつかの予期せぬ事態を経て、思わぬ殺人事件に遭遇することになる……。 1964年にカッパノベルスから刊行された書下ろし長編。中島河太郎の「推理小説事典」などによると、作者・島内透は、1960年に処女長編『悪との契約』でデビュー。1961年の長編第二作『白いめまい』が秀作として反響を呼び、出世作となった。ややマイナーながら国産ハードボイルドミステリ黎明期の歴史を少しでも探究すれば、すぐに名前が出てくる重要な作家の一人のはずである。 それゆえ島内作品はそのうちいつか読んでおかなければと思いながら、例によって大昔から本を集めたまま、実際に著作を手にするのは今回が初めてだった(汗・この本も大昔に買ってあって、自宅内の存在すら忘れてた)。 でもって、かの『白いめまい』も家のどっかにあるはずなれど、先に目についたこちらから読み始めたが……しまった! 本作の主人公の私立探偵・北村樟一は先にその『白いめまい』でデビューしており、こっちはその北村の事件簿の第二作だった(その後のシリーズの流れはまだよく知らない)。登場作品数がそんなに多くなさそうなら、順番に読みたかった。 結局、まあいいや、と思って、そのまま読んでしまったが……うん、これは予想以上に秀作~傑作。『長いお別れ』風に開幕し、事件はロスマクっぽく人間関係の綾で錯綜、主人公の北村の冷えた行動とその裏にあるやさしさはマーロウみたい……と、頭の悪い物言い(汗)だが、わかりやすく言うとそんな話(笑)。 しかし後半3分の1,読者に事件の奥をあえてわざと先読みさせながら、それでも二転三転させる展開、意外性の提示のし方など非常にスリリングである。作品の形質としてもミステリとしてこの事件と物語を語るなら必然的にハードボイルド私立探偵小説に行き着かねばならなかったというような説得力もあり、その辺の腰の据わった感じも素晴らしい。題名の「曲がり角」はそのまま人生の選択肢、岐路の含意だが、逆説的に、自らの意志で行動を選んでいるようで過去の呪縛から逃れられない切なさや苦さ、そしてその一方でそんなハードルを意識もせずに飛び越えてしまうある種の人間のしたたかさ、その双方に抜かりなく作者の視線は向けられている。 本作の主題のひとつはそんな「曲がり角」そして北村と岩田の間の奇妙な? 友情だが、さらにもう一つ……できればこれは、カッパノベルス版裏表紙の解説(作者の思い)を実際に読んでほしい。確かに作者は「そのポイント」に力点を置いたんだろうなあ、という出来である。 語られざる? 優秀作~傑作として自分だけが読んでいればいいや、という我が儘な思い(笑)と、文庫で復刊されて昭和ハードボイルドの名作として21世紀の新旧のミステリファンに広く知られてほしい、そんな願いが相半ばする作品。 さて『白いめまい』はこれを上回るか? はたして、向こうが『本陣』、こっちが『獄門島』かもしれんけどな。 |