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ある夢想者の肖像
スティーヴン・ミルハウザー 出版月: 2015年09月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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白水社
2015年09月

No.1 8点 小原庄助 2018/12/04 09:56
「夢見がち」という言葉から連想するのは、なんだかボーッとした風情だったるするのだが、この作品の登場人物の夢見る力はもっと輪郭がくっきりとしている、というか気配が濃い。
29歳の<僕>アーサーが、6歳からハイスクール時代までを回想したというスタイルの作品だが、その文体もまた(訳文から判断するしかないのだけれど)圧倒的に濃厚で濃密なのだ。
何かにつけて<退屈>を連発する少年時代から思春期にかけてのアーサーは優れて精妙な観察者であり、彼の目を通して濃厚濃密な文体で描かれる退屈なあれこれは、だからといって読み手にとっては退屈とはならない。その逆で、あまりに生き生きと描かれるために、その光景を引き金に、自分の子供時代までもが呼び戻されるほどなのである。
夢想家で、何かと出会う前にもっと素晴らしい何かをくっきりと思い描けてしまうがゆえに、必然的に生じる失望。夢想よりも世界を退屈と断じる少年がある日、自分とよく似た宿命の友人ウィリアムと出会う。でも、作者はこの二人の少年の交流を、よくある青春小説のように甘い友情としては描かない。
夜中に家を抜け出して、互いの部屋を訪問しあうアーサーとウィリアムが経験する深い闇は、心の奥底で静かに主の訪れを待つ底なしの井戸に他ならず、夢想とはそこに降りていった者だけに許される昏い才能なのだということを示す結末が痛々しい。


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スティーヴン・ミルハウザー
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