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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 大放浪 |
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田中光二 | 出版月: 1977年08月 | 平均: 9.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 1977年08月 |
徳間書店 1980年10月 |
No.1 | 9点 | 人並由真 | 2018/06/03 13:47 |
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いびつな選民意識と狂的な浄化思想から世界中に同時多発のバイオテロを起こし、全人類の大半を死に至らしめた大富豪とそのシンパたち。彼らは21世紀のノアの箱舟と称する最新科学の巨大飛行船「タイタン」で、壊滅した地上を睥睨しながら全世界の空を航行する。一度はその集団に迎えられながらも自分の意志でそこから離脱した主人公の若者は、人類再生を求めて行動する超国家組織「ヴェンデッタ」に参加。原子力潜水艦「アーマゲドン」を拠点に、タイタン内に秘匿されるはずの、人類救済の鍵となるワクチンを求めて世界中を追い続ける。
『異星の人』『白熱』『南十字戦線』などなど……1970年代後半~80年代半ばにかけてジャンルを問わずに傑作・秀作を世に出した、当時の俊英・田中光二の代表作のひとつ。 先に挙げたタイトルの作品はみんな大好きだが、刊行当時からSFファン&冒険小説ファンのあいだで高い評価を受けて話題となり、さらに内容紹介を読んで評者の心の琴線にも触れていたこの一冊は、なぜか今まで読み逃していた。 たぶんいつか読もう読もうと思いつつ、時代の隆盛のなかから創作者としての田中光二の勇名が薄れてしまった印象があったからだと思う。 まあ田中光二にしたって全部が傑作というわけではなく、佳作~凡作レベルのものも当時からそれなりにあったのだけれど。 しかしこれは、今さらながらに読んで本当に良かった。 設定はもろ大先輩・小松左京の『復活の日』リスペクトだろうが、その器のなかで自分ならこうする、こういうドラマやビジョンを語る! という作者の若く熱い思いがみなぎっている大ロマンである。 神に近づこうとするエリートの醜悪ながらどこかもの哀しい想念も、主人公とその仲間に人類の明日を託して自分の人生を終えていく者たちの切実な思いも、他者を犠牲にしても自分だけ助かりたいという狡猾な、しかし決して誰にも責めることのできない人間の嘘偽りのない根幹的な本音も、あまねく盛り込まれている。 文体がとても平明で物語の流れも潤滑。その分、追跡行を続ける「ヴェンデッタ」側に都合が良さげに見えるシーンもないではないのだが、作者の方もその辺の危うさはちゃんと心得ていて、当該のそれぞれの場面には情感あふれるドラマもしくは小~中規模のクライシスを用意。何事かが結果的に上首尾に運ぶ際にも、劇中人物も読者も何かしらの心情的な代価を払わなければならないように物語を組み立てている。 物語全体のシンボルとなるポジションを与えられた巨大飛行船タイタンの、メカニックとしてのキャラクターもとても良い。 SF冒険小説の傑作で畢生のエンターテインメント。 |