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[ ハードボイルド ] 真夜中へもう一歩 二村永爾 |
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矢作俊彦 | 出版月: 1985年11月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
光文社 1985年11月 |
角川書店 2005年07月 |
No.2 | 6点 | 雪 | 2019/10/23 09:47 |
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県警本部捜査一課の二村永爾は、横浜医大の解剖学教室に勤務する旧友から、生理解剖用の遺体紛失事件の調査を依頼された。ホトケは一ヵ月ほど前動脈剥離で死亡した同大生・江口達夫で、生前に献体志願の遺書を残していたという。屍体を持ち出したのが彼の同級生ではないかというのが大学側の危惧するところで、また噂を聞きつけた遺族が確認に訪れるおそれもあった。関係者はいずれも医療方面の有力者たちだ。
学生の一人・石山啓二の別荘へ向けて山中湖畔に愛車を走らせる二村だったが、別荘を離れる途中のオープン・カァと接触事故を起こしてしまう。オースティン・ヒーリィのすらりとした体つきの女性は仁科冴子と名乗り、バンパーの修理を約束すると夜気をふるわせて去っていった。彼女は医大理事長・仁科敦一郎の一人娘だった。 別荘に到着した二村は石山ともう一人の学生・田沼漠に詳細を尋ねるが、二人とも心当たりは無いという。彼はその晩『山中湖グランド・ホテル』に投宿するが、ホテルのバァ・カウンターには冴子がいた。彼女にも聞き込みを行う二村だったが、興信所の職員と思い込まれすげなく撥ねつけられてしまう。その直後ホテルの自室前で彼は襲われ、散々に殴り倒された後この件に関わらぬよう忠告される。バス・ルームの入り口には口止めのつもりか、タオルと一万円札が五枚、転がっていた―― 一九七七年の三月から五回に分けて、ハヤカワ・ミステリ・マガジンに連載された二村永爾シリーズ第3作。死体の数は少ないですがヤバさはシリーズ随一。冒頭のエピグラフで嫌な感じはしてましたが、医療関係者が殆どということもあって少々病んだ雰囲気なのがこの作者としては異色。主人公も何回も殴られ、クルマに細工されて命を狙われ、あげくの果てに怪しげな精神病院に患者として叩き込まれます。二村永爾は警官らしくない男ですが、危機がハンパでないので今回は暴力的。若干キレ気味です。 内容的には割とシンプルな真相に大掛かりな事件が食い付いた構図。執筆中に何度もプロット類似の事件が起こり軌道修正を余儀なくされたせいか、社会問題的な部分は背景に退いています。そのせいかメインの事件は結構読み易いですね。若い世代が中心なので『マイク・ハマーへ伝言』からの学生サークル的なムードもちょっとあります。ただ好みからいくとやはりロング・グッドバイ以降の作品が練れてて良いかな。 後何でもかんでも萬金油で治療するのは止めた方がいいと思います。30年以上経って警察辞めてもおんなじなんで、多分一生このままでしょうが。 |
No.1 | 6点 | tider-tiger | 2017/11/12 21:06 |
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~確かなことが、二つだけあった。目の前に坐ってトム・コリンズを飲んでいる男があまりに馬鹿なことを頼んでおり、彼が私の古い顔見知りだということだ。~本書書き出し
旧知の横浜医科大学の教室員から二村永爾に調査の依頼があった。大学の遺体安置所から遺体が消えた。仏は医大生であり、学生の関与を疑ったその教室員は二村に遺体探しを依頼する。二村は仏の友人である医大生を訪ねるが、その数日後に遺体は元の安置所に戻っていた。 本職が刑事(とはとても思えない)で休日だけ探偵化する二村永爾シリーズの二作目。このシリーズは原寮どころではない遅々としたペースで書き継がれている。三十五年間で四作。横浜が舞台なのが個人的には嬉しい。かつてアメリカのいた横浜。洋食屋のオムライスやアップルパイが美味かった横浜。 前作『リンゴォ・キッドの休日』、次作『ロング・グッドバイ』の間に挟まれてやや地味な印象もある本作だが、なかなか読ませる。文体、会話、街の雰囲気、ハードボイルドが好きな人なら充分楽しめるのではないかと。 チャンドラーの影響をもろに受けている作家の一人で、文体はもとより筋立てをいたずらに錯綜させてしまうところまで似ている。 文章はいい。日本のチャンドラー(清水訳)フォロワーの中ではトップクラスではないかと思っている。個人的には前に書評した原寮よりも矢作の方がうまいと思っている。 しかもこの人は年を食うにつれてどんどんうまくなっている印象がある。後年の作に比べると本作の文章はかっこつけ過ぎてやや滑っているところも見られる。 筋立てには無駄が多く、無駄なキャラも多いのだが、その寄り道も楽しい。こういうところ含めて大好きな『さらば愛しき女よ』に似ている。 ただ、いまいち決定力に欠けるのも事実。「チャンドラーを読めばいいんじゃない?」と問われると、返答に詰まってしまうところはある。 これが結城昌治だと「ロスマク読めばいいんじゃね?」とはならない。 それでも私は矢作を読みたくなることがある。 |