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[ 本格/新本格 ]
追尾の連繫
山村直樹 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 人並由真 2017/09/12 14:57
(ネタバレなし)
<チャンネル1>
 国文学者・書道家・写真家など多才な顔を持ち「日本のダ・ヴィンチ」と呼ばれる大学教授・妹尾耕作(63歳)。その妹尾が行方を断った。妹尾は、旧知の友であるアマチュア書道家・浅岡(61歳)と対面した直後だったが、その後、彼は川の側で変死体で見つかる。妹尾の担当編集者だった青年・田方直哉は、故人の足取りを追うが。
<チャンネル2>
 F電機の社員・井沢守を夫に持ち、出産を控えた若妻・抄子(27歳)。だが彼女が留守の間に自宅は全焼。自宅にいた守は死体となって見つかった。だがその死には不審な点があり、さらに彼の遺体の下にはダイイングメッセージと思われる見た目で囲碁の碁石が並べられていた。抄子は身重の体で夫の関係者を訪ねて回り、事件の真実に迫ろうとするが……。

 1972年11月(奥付より)に<双葉社推理小説シリーズ>の一冊として刊行された長編パズラー。帯に鮎川哲也が本作の推薦と作者への今後の期待を寄せている。
 鮎川の著した帯のコメントと、作者のあとがきや著者紹介などの情報をまとめると、作者・山村直樹は1959年に「宝石」新人賞を受賞したのち、その10年後に自作『破門の記』で「オール読物新人賞」を受賞(鮎川はこの時点から話題にしている)。
 さらに本作の部分的な原型にあたる作品『死者の経路』ほかの短編(中編?)作品を発表したのち、この長編を上梓。そのまま文壇から去ってしまった。
(webでの情報を拝見するに、本書刊行以降~2017年現在は、書道家として活動されているようである。)
 
 鮎川が推挙した幻の作家の幻の作品ということで、後年も一部のマニアの注目を受けた本書。たしかどこかの<国産ミステリ幻の名作>的なリストにも加えられたような記憶がある。
 さらに刊行当時、1972~73年のミステリマガジンでは「かつてB・S・バリンジャーという(2つの物語を並行させる)作家がいたが、本作はそれを思わせる」という主旨の書評(国産ミステリの月評)も掲載されており、これもまた当時にしては異彩を放った趣向の、本書の印象を深めた。
 とまれ今では二つの物語を並行させるスタイルの作品など氾濫しているし、72年当時に過去の作家扱いされたバリンジャー(ヴァリンジャー)の方が、比較された山村直紀などよりはるかにミステリファン全般にもメジャーであろう。まさに歴史は巡る風車(かざぐるま)なのだが。
 
 はたして内容に関しては上記(バリンジャー風)のとおり、一見なんの接点もない二つの物語が、テレビの<チャンネル>の切り替えになぞらえた形で並行して語られ、やがてある経緯で関わり合っていく。その上でそれぞれの物語の流れにフーダニットやアリバイ崩し、ダイイングメッセージの謎解きなどの興味が用意されている。こんな構成のなかで一方の物語が、もう一方のストーリーに斬り込んで事件の大きな謎を崩していく作劇がなかなかで、この辺は作者の狙いがうまくいった感じだ。
(まあ両方の物語を連結する重要人物が作品の中盤で判明してしまうのはちょっと早い印象があり、近年の技巧派ミステリならもう少し上手な隠しようがあった気もするが。)
 一方で一番のメイントリックは印象的なものが設けられ、終盤のドラマのまとめ方も好感がもてる。複数の趣向を鑑みて、全体としては佳作~秀作の一冊。
 もし作者がもう少し創作を続けていれば、さらに面白いものが書けたかもしれない。そんな無いものねだりの可能性を感じさせる部分もあった。 


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