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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.906 5点 最後の女- エラリイ・クイーン 2021/02/16 11:47
 ジョニーがやけにおとなしそうなキャラクターだったり、元妻らの容疑がアッサリ晴れたりと、内容の成分に比べ妙に平坦な書き方で損をしている。もっと色とりどりに飾ってもいいのに。
 某が夜中に錯乱する場面は短いながら印象的。前半の描写とのギャップが、作者の不手際ではなく、平穏な言動の裏に彼女もこんな気持を押し隠していたんだなぁと思えるところが立派。

No.905 6点 人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル- 竹田人造 2021/02/16 11:47
 阿呆みたいな題名だけどハヤカワ文庫なので手に取ってみた。ゲーム性を重視した近未来クライム・アクション。良く出来ているが、同系統の他の作品より物凄く面白いとまでは言えない。先日読んだばかりの山田正紀の某作と似た味わい。AI 関連の知識が豊富ならもっと楽しめただろうか。八雲さんをチョイ役で捨てるのは勿体無い。

No.904 5点 馬鹿と嘘の弓- 森博嗣 2021/02/10 13:43
 そういう人生観もアリかな~、と思わせておいて卓袱台返し、みたいな狙いは決まっている。文章力の勝利ではある。しかし現実の事件をそのまま髣髴させる書き方のせいで、非道な展開を無心に楽しめないのは大減点。戦略ミスだと思う。

No.903 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている はじまりの音- 太田紫織 2021/02/10 13:42
 ネタが地味だけど、それでもこの程度には仕上がるのだから立派なキャラクター造形だ。今更ながら、語り手の性格の固さと文体が良くも悪くもリンクしているな~と思った。ショート・ストーリー「北方の三賢人」が一番良かった。

No.902 5点 ロボット (R.U.R.)- カレル・チャペック 2021/02/10 13:42
 “最初のロボット”がこんなホムンクルスみたいなイメージだったのは意外。最初から“人類に反旗を翻す存在”として構想されたのは――考えてみれば当然か。便利にこき使われてきた存在が心を持てば……。
 つまらないとは言わないが、今となってはありきたりに感じる部分も多い。序幕、ヘレナが無知なまま“ロボットの解放”を求めるあたりは批評的で面白い。ロボットは皆同じ顔なんだよね。これどう上演したの?

No.901 8点 ふしぎの国の犯罪者たち- 山田正紀 2021/02/03 12:02
 冷水を浴びせるようなラストは、決して嫌いなタイプではないのに、本作に限ってはあまりにショッキングで悲痛。それだけ登場人物達に愛着を感じていたのはニックネームの効用か? どの作戦も綱渡りの連続なのに、夢の中でステップを踏むような遊戯性をうっすらと滲ませた筆致でなんとなく納得させられてしまう。特に、あさっての方から急襲するような3話目のアイデアに感服。

No.900 8点 人獣細工- 小林泰三 2021/02/03 12:01
 表題作は、厳しく見れば「玩具修理者」の焼き直し。読み比べると「玩具修理者」はほぼ骨格だけなんだな~。私は肉を纏った「人獣細工」の方が好き。
 「吸血狩り」。この作者にしてはとてもストレート。
 「本」。言語によるソフトウェアが脳にインストールされちゃうことはよくあるよね。これは決して奇天烈なフィクションではないと思う。

No.899 7点 - 安部公房 2021/02/03 12:00
「第一部 S・カルマ氏の犯罪」は裁判ネタ。フランツ・カフカ『審判』よりはかなり読み易くストレートに楽しめる。
 第一部と言っても本書は長編ではなく中短編のアンソロジーに近く、中でも「洪水」が面白い。全体を纏めるものとして『壁』と掲げたのは、読者にとっては親切な道標でも、作者にしてみれば割り切りを強いられたようなものだったのでは。ピンク・フロイドの壁は“分断”だけれど、こちらは“固定”。輪郭が消えてしまうと何処までが自分だか判らなくなっちゃうんだよね。

No.898 7点 文学少女対数学少女- 陸秋槎 2021/02/03 11:55
 作中作の粗探しによるミステリ論。いいねいいね親近感を覚えちゃうね。うだうだ悩む語り手も正しい青春て感じ。人名から性別が全くイメージ出来ないのが難点(作品に責任は一切無い)。
 2話目、ドアの錠が“人を監禁出来る”設定だけどいいのか……?

No.897 6点 孤独の島- エラリイ・クイーン 2021/02/03 11:54
 おまわりに預けよう、と言い出した時、ハハァ、コレは弱味を握っているか、金で転ぶ悪徳警官か、ともかくなにがしかの事情があるんだな、と思った。人質に取り易い家族がいると言うだけなら選択肢は他にもありそうなのに、何故わざわざ警官を巻き込んだ?
 三者三様キャラの立った強盗団に比べて、マローンの性格はあまり読み取れなかった。と言うか、彼本来の性格なのか、状況によって強いられた無理な行動なのか、区別が付かなかった。
 邦題は考え過ぎで合っていない。後半で舞台がどこかの島に移ると信じていたのに。そのまま『コップ・アウト』でいいんじゃないの。

No.896 8点 皆殺しパーティ- 天藤真 2021/01/29 13:24
 この一人称の書き方は“成功者の自伝”のパロディのよう。早苗の描写が若干ギクシャクして感じられるのは流石に時代か。巻き込まれて死んだ市民は気の毒で、そのエピソードは要らなかったのでは。
 ネタバレするが確認。第一の殺人で被害者が期待通りに動くかは結構な賭け。場合によっては“殺人カップル”の存在は共犯者の証言のみに依拠することになる。どうせそれでいいなら、ちょっと芝居がかった罠を仕込み過ぎ、と言う気もする。でもまぁ証言してくれれば、その後に殺し直してもいいわけで、ホテルではその“芝居”の方を重視すべきか。うーむ。

No.895 5点 バベル‐17- サミュエル・R・ディレイニー 2021/01/29 13:22
 言語学SFと言って他に思い付くのは『言語都市』(チャイナ・ミエヴィル)、『あなたの人生の物語』(テッド・チャン)、『文字渦』(円城塔)等々。いずれも、架空の言語(及びそれに伴う架空の概念)を既成の言語で説明する面白さがそのまま読者にとっての困難さにつながっている。
 ただ本作の場合、“バベル‐17”なる要素は物語の軸ではなく、ちりばめられたキッチュなガジェットのワン・オヴ・ゼムに過ぎないと思う。それがタイトルに掲げられているせいで、思い返せば私は物語全体のバランスを見誤った。言語学ネタにこだわらず活劇をもっと楽しめば良かったのかもしれない。

No.894 6点 強欲な羊- 美輪和音 2021/01/29 13:21
 それぞれの出来は良いが、この手の作風は短編集だと飽きる。もっとありきたりな“事件→捜査→解決”形式にはそんなことないので不公平だが仕方がない。
 粗筋紹介文に“女性ならではの鋭い狂気”、文庫版解説には“女って怖い”。作者もそういう考え方を踏襲して書いていそう。私は“キャラクターにはあくまでその個人の諸要素が反映されているのであって、性別は(ほぼ)無関係”だと思うので、そのへんは深みに欠けるパターン化した造形で大きなマイナス点だと感じた。

No.893 5点 天国は遠すぎる- 土屋隆夫 2021/01/29 13:20
 “死を誘う歌”なんて思わせ振りなガジェット、しかもそれをタイトルに掲げておいて、しかしすぐに全然違う方向へ進んで、結局アレは何だったのか、物語に膨らみを持たせる役にも立っていない余計な遊びにしか思えない。アリバイのトリックよりも結末のソレに驚いたね。

No.892 8点 時をかける少女- 筒井康隆 2021/01/26 13:45
 あっれ~、こんなにシンプルな話だったっけ? 素朴な焼き菓子って感じ。
 この余白の多さが、メディアを越えて繰り返し増幅される要因か。クリームやフルーツを盛って見栄えの良いスウィーツに仕立てることが無意味だとは言わないが、土台だけでも充分美味しいんですよ。 
 昨今のラノベのスピード感とは一線を画した、若干の野暮ったさを孕みつつも丁寧に綴られた文体が意外な程に好感度高し。“でっぷり太ったメガネの小松先生”他数人、作家仲間がカメオ出演していますね。

No.891 6点 天狗の面- 土屋隆夫 2021/01/26 13:44
 泥縄式に書き進めて、不具合が見付かっても修正せずに後から注釈を付けるだけで片付けたような、妙に不揃いな印象を受けた。書き下ろしなんだし、あと一回、推敲して細部を整えるべきだったのでは。
 毒殺トリック論は読み飛ばしても良かった。“毎夜十時にサイレンが鳴る”と言う設定が不思議。当時の農村では普通の習慣だった?
 そしてネタバレしつつ確認。第一の殺人、当初の目論見としては“腹痛は当人の疾病が原因”と言う設定だった筈だよね。だって毒殺未遂を演出してしまうと、その犯人は誰かと言う問題が未解決のままだから。その点に誤解が生じそうなので、作中に書いておいて欲しかった。

No.890 6点 作家小説- 有栖川有栖 2021/01/26 13:43
 もっとしょーもないものかと思っていたが存外ちゃんとした作品集。「締切二日前」で言及される筒井康隆作品は「猫と真珠湾」だが、うろ覚えで書いたか少し違うところがある。「サイン会の憂鬱」の“店頭の貼り紙”は、本名をバラすなウィキペディア! と言う“有栖川有栖”さんの憤りか?

No.889 9点 夜歩く- 横溝正史 2021/01/21 12:06
 おっと凄い。アンフェアな書き方が許される状況をフェアな範囲内で設定する、と言うメタ的なアプローチを横溝正史が試みるとは驚いた。“アンフェア”とはトリックそのものではなく“心理的な虚偽の記述”のことね。この小説の存在自体が、どす黒い悪巧みの証左として、グイッとページの中から立ち上がって来るようだ。読み物として物凄く面白いとまでは言えないが、記述者がへぼ作家なのだから整合性は保たれている。正直なところAC作品よりこっちが上。
 しかし、最初の殺人の凶器の扱いは不自然。そこでおどろおどろの雰囲気作りを優先しちゃうのが横溝か……。

No.888 7点 真鍮の家- エラリイ・クイーン 2021/01/21 12:05
 実はEQの長編を一気読み出来たのは初めてだ。鋭さには欠けるが妙に読み易い面白さがある。殺人事件の調査より遺産探しを優先しているようで、クイーン元警視の態度にイライラ(ニヤニヤ?)。殺人の真相には結構驚いたけど遺産のオチはなんだそりゃ。
 招待状の文面は変。“来着または不参をもって返事と承知”と言っても、日時指定が無いから“不参”の判断が出来ないでしょう。

No.887 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 謡う指先- 太田紫織 2021/01/21 12:05
 第壱骨。ミステリ的な驚きとかは無いが、切迫感と言うか語り手の焦燥を否応無く共有させられる書きっぷり(&ウルフのエピソード)に、こちらの気持も引っ掻き回された。グッジョブ。
 第参骨。“カモフラージュ”についての疑問。人の指を誤魔化す為にクマの手を使った。ならばクマの指が一本余る筈で、それはどう処分したのか。そもそも処分出来るなら最初から人の指をそう処分すれば済む話ではないか――と考えると、そんな回りくどいことをした理由は、その処分方法が、人なら無理だがクマなら可能な類のものだったからでは。つまり、食べたのだ。

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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