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[ 本格 ]
フレンチ警部最大の事件
フレンチシリーズ
F・W・クロフツ 出版月: 1957年01月 平均: 6.20点 書評数: 10件

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東京創元社
1957年01月

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1975年06月

No.10 3点 レッドキング 2022/07/30 15:57
クロフツ第五作。宝石強盗殺人事件を追うフレンチ。あらゆる目撃証言のウラを取り、僅かな可能性の欠片も捨てず、英本国のみならず仏蘭スイスからスペインポルトガルにまで東奔西走する探偵警官。犯人Who=幻の女を求めて展開に、チョットした消失(て程でもないが)トリックと、暗号解読オマケ付き。

No.9 6点 弾十六 2022/06/19 13:22
1925年出版。クロフツ長篇5冊目でやっとフレンチ警部初登場です。ただし作者自身はシリーズ・キャラとして続けるつもりはなかった、と何処かで読んだ記憶あり。本作を読んでみても前四長篇の刑事と際立った違いもなく、たいしてキャラ立ちがしていない。出版社としてはシリーズ探偵の方が販促上有利だよ、という事だったのだろう。
本作はフレンチ警部がロンドンを離れて大陸のあちこちに行くのだが、どこも短い滞在で(スイスへの旅に作者の憧れが感じられる)、旅行ものではない。捜査のため、とは言え、こんなに簡単に出張出来るのかなあ。
作品としては、いろいろな謎がてんこ盛り。登場人物のキャラは地味で、事件の進展で面白く読めるタイプの作品。途中で重要な物証の手がかりが忘れられていたり、当然疑うべき筋を全く検討していなかったり、という手抜かりはあるが、1920年代の香りが興味深く、結構起伏に富んだ筋立てで面白かった。
以下、トリビア。
作中現在はp46、p68から1924年(p155は曜日の誤りだろう)。英国消費者物価指数基準1924/2022(64.78倍)で£1=10690円。
p11 ミルナー金庫(Milner safe)◆1814年ごろ創業のロンドンの金庫メーカーThomas Milner and Sonの製品。
p17 ジェラルド局の1417B(Gerard, 1417B)◆電話番号なのだが、最後に英文字がつく例を見たのは初めて。
p18 フレンチ初登場の描写
p19 お世辞のジョー(Soapy Joe)◆フレンチ警部のあだ名だと言う。辞書には「人当たりの良い」とある。
p29 給仕◆この小説には少年給仕が数人登場する。当時の会社組織には当たり前の存在だったのだろう
p34 アイルランド人の言う『仲間といっしょ』(‘keeping company,’ as the Irish say)
p35 紙幣の番号… 銀行にきけばわかるかも◆ここで言っている紙幣はイングランド銀行券のこと。
p45 女子クラブ(a girls’ club)◆ Maude Stanley(1833-1915)が主催していたような青少年健全育成のための場のことだろう。
p46 火曜日(the Tuesday, the day before the murder)◆殺人のあった前の日
p46 五十ポンド紙幣… 十ポンド紙幣◆ £50 Whiteも£10 Whiteもサイズは211x133mm。印刷は白黒で片面のみ。
p48 検屍審問(インクエスト)は夕方の5時
p52 年額400ポンド◆支配人の俸給(地位からすれば不当なものではない(his salary was not unreasonable for his position)p55) 約400万円は安すぎるようにも思うのだが、当時の税金や社会保障の負担率を考えると相応なのかも。
p57 盗難紙幣に関する一般的な告示が各銀行へ(a general advice was sent to the banks as to the missing notes)
p68 二十六日水曜日(Wednesday, 26th)◆手紙に記された日付。11月26日のこと。1924年が該当。だがp155では「木曜日」だと言う。
p87 シュピーツ…トゥーン湖… この湖が本当にあの信じられない色をしている(… Spiez, where he found the Lake of Thun really had the incredible colouring…)◆ロンドンで見たポスターと比べている。当時もののポスターを探したが、見つかったのは普通の色に見える。
p91 十ポンド… 約七百フラン相当◆金基準1924だと10ポンド=847フランだった。手数料込みの為替レートか。
p117 エミリー(Emily)◆フレンチ夫人の名前が初登場。
p123 大衆食堂(a popular restaurant)
p129 半クラウン貨◆当時はジョージ五世の肖像。1920-1936鋳造のものは.500 Silver, 14.1g, 直径32mm。
p131 伝声管(the speaking tube)◆タクシーの座席に設置されていて、客がドライバーに指示を出せたようだが、画像が見つからない。かつて何かのサイレント映画で使ってるのを見たのだが、メモし忘れ、後で探してもタイトルが判らない。その映像では後部座席二人乗りの間にチューブがあってそれを持って口元に当てて指示していた。Web上の記事によると自動車の音がうるさいので聞き取りにくくあまり実用的ではなかったように書いてあった。
p147 電話… 盗み聞き(You can never tell who overhears you)◆電話の黎明期なので、混線や交換手の盗み聞きを警戒したものか。
p148 オリンピック号(the Olympic)◆大西洋横断航路の大型旅客船。RMS Olympic(英Wiki)参照。
p148 二十ポンド紙幣(a twenty-pound note)◆ £20 Whiteはサイズ211x133mm。印刷は白黒で片面のみ。
p155 十一月二十六日木曜日(Thursday, 26th November)◆語り手は、日記を見ながら言っている。
p156 取り引きのない人に紙幣を両替えすることはゆるされていない(the cashier politely informed her he was not permitted to change notes for strangers)◆銀行の出納係の説明。犯罪予防のためか?
p157 五ポンド札◆ £5 Whiteはサイズ195x120mm。印刷は白黒で片面のみ。
p161 ホワイト・スター汽船(the White Star)◆オリンピック号を運行していた会社。White Star Line(1845-1934)
p181 おい、お若いの(Now, young man)◆男の子を叱るときに用いる、と辞書にあった。
p188 小額紙幣で受けとったので、紙幣の番号はわからなかった(She had taken her money in notes of small value, the numbers of which had not been observed)◆商店では、普通の商売取引ならばいちいち小額紙幣の番号は記録しないのだろう。この書き方だと高額紙幣なら記録するのか?
p190 米国なまり◆といってもいろいろあるだろうが、ここでイメージしてるのはどんな感じなのだろう。
p193 コダック(Kodak)
p219 ごきげんさん(a good twist)
p220 ユダヤ人めいたところのある(rather Jewish looking)
p232 オランダ岬(フック)(the Hook)◆オランダ語でHoek van Holland、英国とオランダを結ぶ航路のオランダ側の連絡港。古くはcape(岬)という意味で使われた言葉。
p238 ジレットの安全剃刀の刃(a Gillette razor blade)
p243 長男をなくした(Lost my eldest)◆第一次大戦で、という事はフレンチ警部は40代くらいか。
p246 イライザ(Eliza)◆女中と訳されているが、原文に相当する語はない。フレンチの娘だと言う説があるようだが、この場面の感じは女中っぽい扱いに思える。
p250 議事堂の大時計が九時半をうった(Big Ben was striking half-past nine)◆毎時30分には小さい鐘が八回鳴る。鳴り方の詳細は英Wiki “Westminster Quarters”参照。
p257 絨毯だけでも120ポンドをくだるまい
p257 コローナ・コローナ(Corona Coronas)◆葉巻のDouble Coronaのことか。
p257 コンサイス・オックスフォード辞典(The Concise Oxford Dictionary)◆初版1911年、第二版1929年なので、ここにあったのは初版だろう。正式名称はThe Concise Oxford Dictionary of Current English, adapted by H. W. Fowler and F. G. Fowler。1019ページ。
p261 五シリング◆2672円。情報料として。
p269 五ポンド◆召使いへの退職手当として。

No.8 6点 ボナンザ 2018/04/08 12:26
良くも悪くもクロフツらしい作風で、コツコツ積み重ねていくフレンチの捜査を楽しめるかどうかで評価が割れそう。

No.7 7点 人並由真 2017/07/24 15:03
(ネタバレなし)
フーダニットとも純粋なアリバイ崩しでもないのだが、警察捜査小説の中に多様な興味を盛り込んだ実に読み応えある一冊だった。
終盤、ようやく犯人像が絞り込まれてくると暗号まで登場し、立体的な興味で読者を飽きさせない作りは初期作ならではの気迫を感じさせる。

ところでこの時点でのフレンチには戦死した息子がいたんですな。この設定はのちの作品でもいきてるんだろうか。

No.6 5点 nukkam 2016/09/05 00:06
(ネタバレなしです) 1925年発表のミステリー第5作はシリーズ探偵であるフレンチ警部の初登場作であり、これ以降の作品のほとんどはフレンチ警部(後に警視まで出世します)が登場するようになります。本書は通常の犯人当て本格派推理小説とは毛色が異なっていて、謎の人物「X夫人」の追跡劇が中心のスリラー小説要素の強い作品です。しかし随所ではフレンチによる推理場面がありますので一応は本格派の体裁を保った作品と言えると思います。フレンチの捜査範囲が英国から欧州各国へと広がっていくのですが風景描写に関しては物足りなく、トラベルミステリーの雰囲気は意外と希薄でした。「最大」というタイトルもかなり誇張気味なので期待は割り引いておいた方がいいかも(笑)

No.5 7点 斎藤警部 2015/11/30 10:56
存外ヒューモーミスタリィの手触り。フレンチ初登場シーンもそんな所。でもコンスタントにオモロなわけじゃなくて、時折思い出したようにくクスクス笑いを誘うほどの奥ゆかしさが心地よい。中盤に至り 読者としてもフレンチ警部としてもワクワクする展開大滑空。X夫人と来ますか。。冒険の果て、物語の思慮ある終わらせ方は心に残る。趣深く色褪せた古典名作だ。 【さてここからネタバレ】この小説、アリバイトリックめいたものはあくまでダミーなんですよね、それでも旅情たっぷりのアリバイ捜査劇が物語興味の重要な根幹を成しているという軽い騙し絵構造がニクいですよ。二人七役(という数え方でいいのか?)トリックもちょっとバタバタですが悪くありません。奇妙な帳簿に見せ掛けた暗号とその解読過程も興味津々です。

No.4 8点 toyotama 2010/10/08 08:17
やっぱりフレンチ警部はあっちこっち飛び回らなくては。
イギリス・ロンドン~スイス・シャモニー~スペイン・バルセロナ~ポルトガル・リスボン。
とにかく、「海の話」だけは苦手(理解しにくい)ですが、陸地ものは大好きです。

No.3 6点 kanamori 2010/07/15 20:36
宝石商殺しと宝石詐欺事件を追って、フレンチ警部がヨーロッパの国々を駆けずり回るシリーズ第1作。
典型的なフレンチものの様相で、捜査があっちこっちに逸れてなかなか進展しないプロットですが、フレンチ夫人の編み棒片手のアドバイスがアクセントになっています。
犯人に罠を仕掛ける手法は好みではありませんが、最後に船上で追い詰めた真犯人の正体に、(読者以上に)フレンチが驚く構図はユニークでした。

No.2 7点 E-BANKER 2009/11/23 14:01
フレンチ警部が初登場する記念すべき作品。
タイトルは「最大の…」となっていますが、作者も当初はフレンチ警部を本作だけの探偵役と考えていたためで、「最大」というほどのインパクトはありません。
ただ、クロフツらしい一作なのは間違いなく、細かな手掛かりや考えをもとに、フレンチ警部が丹念に捜査を進めていきます。
特に、真犯人を指摘するラストの場面がいいですね。フレンチ警部を翻弄した犯人とその理由が気持ちよく頭に入ってきます。
ちょっと途中がモタモタしますが、それはそれでクロフツの特徴ですから・・・

No.1 7点 2009/05/12 21:42
このフレンチ警部登場第1作は、その後の作品での警部の活躍を読むと全然最大ではないのですが…あとがき等にも書かれているように、クロフツはシリーズ化する意図はなかったのでしょう。それでも、オランダ、スイス、スペイン、フランスとフレンチ警部は欧州各国を飛び回るのですから、なかなか大がかりな捜査ではあります。
この作家らしい地道な調査で犯人を少しずつ追い詰めていく構成ですが、その正体は最後逮捕のシーンで顔を合わせるまで不明なままです。フレンチ警部自身、追い詰めた犯人が誰であるか知って驚くのですから、あらかじめ読者に手がかりを与えておくという意味でのフェアプレイはありません。しかし、変装、暗号、それにあるトリック(アリバイではありません)など、謎解きの要素が整然と詰め込まれた好ましい作品です。


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