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[ 短編集(分類不能) ]
ノウイットオール  あなただけが知っている
森バジル 出版月: 2023年07月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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文藝春秋
2023年07月

No.2 6点 メルカトル 2024/03/30 22:50
1つの街を舞台に描かれる、5つの世界は、少しずつ重なりあい、影響を与えあい、思わぬ結末を引き起こす。
すべてを目撃するのは、読者であるあなただけ。

推理小説/青春小説/科学小説/幻想小説/恋愛小説

5つの物語は、5度世界を反転させる。
森バジルを読めば「世界が変わる」
Amazon内容紹介より。

惜しい。第一章の『推理小説』は単純に思えた事件が意外に捩じれているのを知った後、この水準で行けば7点は堅いと思いました。第二章の『青春小説』は言ってみれば王道だし、それ程の新味を感じないのは残念でした。これを評価している方が多い様ですが、私には既視感の強い、ラノベで何度も読んだ様なものだったので、あまり刺さりませんでした。『科学小説』でやや盛り返すも、『幻想小説』はちょっと意味を履き違えている気がしました。これって幻想と云うより普通のファンタジーじゃないですかね。

色んなジャンルを書けるんだぞと言いたいのは分かりますが、それで作者自身が満足してしまっている感じが伝わって来て、少し嫌な気分になりました。確かにそれぞれの短編が少しずつ何らかの形で繋がってはいますが、それが有機的でないところに不満を覚えます。あっこのシーンはあそこだなって感じで、成程ねとは思いましたけどね。まあ意外な人物がいきなり登場したりするのは良かったです。
この人の実力はまだ未知数、近いうちにもっと傑作を物にするかも知れないし。

No.1 7点 人並由真 2024/03/16 16:47
(ネタバレなし)
 2023年。どこかの地方都市・切縞市。そこでは暴力団関連の殺人事件が生じ、M―1を目指して男女の高校生の漫才コンビが闘志を燃やし、未来人が来訪し、魔法のある異世界とリンクし、そして30歳の独身女性が秘めたる思いを抱きながら恋に悩んでいた。

 第30回松本清張賞受賞作品。
 切縞市というひとつの空間を舞台に、世界観を共有した、しかしまったく方向性の異なる、でもところどころ登場人物や文芸設定や描写がリンクする、5つの物語が順々に語られる。
 なおタイトルの「ノウイットオール(know-it-all)」はそのまま訳せば「しったかぶり」の意味。

 構成&趣向はさほど珍しいものではないと思うが(と言いながら、具体的に類作をぱっとあげろと言われると、答えにくいけれど)、こういう構造の連作短編集ゆえ、全体のバラエティ感はとても楽しいし、あとの方の話まで読み進むにつれて「ああ、あの場面のあの登場人物は、このキャラ(たち)だったのね」的な軽いサプライズもふんだんに盛り込まれている。個人的には特に第4章「幻想小説」編の某キャラの正体に、ちょっとぐっと来た。

 純粋にミステリといえるのは第1章「推理小説」編だけで、謎解き作品としてはそれ自体ならまあ佳作という感じだけれど、ほかのエピソードも随所にミステリっぽい手法は使われてはいる。
 
 一番良かったのは第2章の「青春小説」編。これで評点は1点プラス。
 第3章の「SF」編は本筋も悪くはないが、むしろその第2章の後日譚的な読み方をして心に感じるものがあった。
 
 良い意味で外連味を抑えた良質の連作短編集だったと思うが、最後の第5章「恋愛小説」編は、ストーリーの中味そのものは良しとして、クロージングがややあっけない。その辺はあえて作者が狙った効果か?
 
 これが、評者が、SRの昨年度ベスト投票用に読んだ最後の一冊になったな。規定リストには入ってない、投票者の推し作品枠だけど。

 作者に関しては、まだ32歳の新鋭(これ以前に、ラノベの著作が一本だけあるらしい)ということで、今後を楽しみにさせてもらいます。


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森バジル
2023年07月
ノウイットオール  あなただけが知っている
平均:6.50 / 書評数:2