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ミステリの祭典

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亡霊館の殺人

作家 二階堂黎人
出版日2015年09月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 名探偵ジャパン
(2017/04/23 16:00登録)
作者自身の代表長編『吸血の家』の短編版を含む、三本の短編と二本のエッセイを収録した一冊です。
冒頭に収録された「霧の悪魔」を読んだときに、「これは『吸血の家』に似たようなトリックがあったな」と思ったのですが、これは意図的な措置です。「吸血の家 短編版」自体は、当該作の雪密室トリックだけをフィーチャーして短編として再構成されたものなのですが、『吸血の家』にあったもうひとつの足跡トリックをもとに構成されたものが「霧の悪魔」だそうです。決してネタの使い回しではなかったのです。この焼き直しのような二作品が書かれたのは、アメリカ版「エラリークイーンズミステリマガジン」に掲載するためだったそうです。この事情については本文に詳しいので、そちらをご覧下さい。

こうして改めて短編として読み直してみたのですが、やはりこの『吸血の家』の雪密室トリックはよくできています。図らずも短編となったことで、よりトリックのインパクトが明確になって、よくなったのではないでしょうか。
唯一の新規トリックものの表題作「亡霊館の殺人」もですが、どれもトリック重視の古めかしいタイプの作品で、こういったものは昨今はかえって書くのが難しいでしょう。作者の二階堂黎人は、偏重ともいえるトリック重視の作風で有名ですが、その魅力がいかんなく発揮された作品集となっています。
小説以外のエッセイはどちらも、ディクスン・カーについて書かれたもので、「霧の悪魔」「亡霊館の殺人」はどちらもヘンリー・メリヴェール卿を主人公にしたパステーシュものとなっており、作者のカー愛も同時に発揮されています。

No.1 7点 HORNET
(2016/01/10 22:31登録)
 カー・マニアの著者が、カー作品のパステーシュ2編と、翻訳版の解説やカー特集に寄せた論考を載せた作品集。
 ミステリ作家には割とよくあることだが(というかミステリしかほとんど読まないので他ジャンルでもそうかもしれないが)プロである作家が、自身が好きな他作家のことになると いちファンになってしまい、その他作家のよさを共有したくて、「作家」という立場を大いに活用して推している。
 もちろんミステリファンとしてその気持ちは大いにわかるし、やはり素人にはかなわない見識を備えているので、その「カー推し」は読んでいて非常に興味深く面白い。この7点はほとんどそれである。
 実際私自身はカー作品は数点しか読んでいない。本書の「パンチとジュディについて」(ハヤカワ「パンチとジュディ」の解説文)で、クリスティやクイーンが世間に広く認知され多く読まれるのに対して、カーはマニアしかあまり手を伸ばさないことについて、著者の考察が書かれていたが、かなり的を射ていて自分で笑ってしまった。
 しかしこの一冊を読んで「今年はカーを読んでみようかな」と思えた。そう思うと著者の目論見は成功している。
 一編ずつ短いし、1日で優に読める。半分「ディクスン・カー ガイド」だと思って読んでも、損した気分にはならない。

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