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ミステリの祭典

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同名異人の四人が死んだ

作家 佐野洋
出版日1978年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/10/28 02:43登録)
(ネタバレなし)
 日刊新聞「中央日報」の社会部に届いた手紙。それは入院中の青年・塚越英介からのものだった。そしてその内容は、人気作家・名原信一郎の中編小説「囁く達磨」のなかで絶命する主要人物たちとそれぞれ同じ名前の実在の人間が二人、相次いで変死を遂げているという奇妙な事実の指摘だった。社会部の記者・鳥井から相談を受けた学芸部の記者・米内はくだんの作家・名原と面識があり、彼のもとに向かう。だが名原本人は当然のごとく、現実の事件への関与を否定。さらに作中人物と現実の死者の名前の符合を認めつつも、結局は狐につままれたような表情を見せる。そんななか、さらにまた「囁く達磨」の登場人物と同じ名前の死者が現実に……。

 1973年の11月に、当時の講談社の叢書「推理小説特別書き下し」シリーズの一冊として刊行された作品。評者は今回は、講談社文庫版で読了。

 当初は自分も、先行の斎藤警部さんのレビューと同様<あちこちで相次いで、あるいはほぼ同時に●●●●なる同一の名前の人物が死ぬ>話かと思ったが、実際には違っていた。
 仮にそういうプロットが成立したとして、現実に刊行された本作とどちらが面白そうかと問われれば、ちょっと悩むところではある。
 なんにしろ実作となった本作の謎の訴求力は、なかなかのものだ。

 登場人物は名前のあるキャラクターだけで40人前後。とはいえ佐野洋らしく各キャラの人物像の掘り下げには拘泥せず、登場人物全般を良い意味で物語の駒的に配置するので、読んでいて胃にもたれることなどはない。ストーリーは好テンポに淀みなく進んでいく。
 
 フーダニットの謎と同時に、<なぜ作中の人物と同じ名前の現実の被害者が、複数生じたのか>というメインの謎は、一種のホワイダニットの興味として終盤まで引っ張られる。
 ただし真相を明かされると、それで一応は納得のゆく筋道は通るものの、いささか大山鳴動して鼠一匹の感は拭えない。もちろん、この辺はあまり詳しくは書けないが。

 あと、事件の事情のすべてが暴かれたあとで事態の流れを振り返ると、一部の登場人物のものの考え方の面で<それって不自然なのでは?>と思う箇所もいくつか出てきた。
 まあその辺は<とにもかくにも、その際に作中人物はそういう思考と決断をしたんだ>という納得で通らなくもないので、ぎりぎりか。
 全体的にはそれなり以上に面白かった。ラストの余韻のある幕切れは、一種の(中略)風のスタイルで印象に残る。 

 最後に、講談社文庫の巻末の解説は、北上次郎が担当。北上はちゃんと多数の佐野作品を読み込んでいるようで、諸作に登場する「中央日報」の関係性(各作品を同じ世界観と認識して構わないか)の検証をみっちり行っている。良い意味でのファン・スピリットに溢れた文章になっていて、実に素晴らしい。こういう原稿を見倣いたいもんだ。

No.1 7点 斎藤警部
(2015/08/19 00:30登録)
同じ名前の四人の人達(四人の亀取二郎とか)が死ぬんじゃないですよ。作中に登場する、連続殺人事件を扱った推理小説の四人の被害者と同姓同名の四人が次々に亡くなるんですよ。どうです、そっちの方が面白そうでしょう? うん、実際面白いんですよ。きれいに脂の乗った時期の佐野洋だからね、好きな人にはたまりません。詳しい中身は憶えていませんよ。

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