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ミステリの祭典

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加里岬の踊子
秋水魚太郎、熊座退介警部

作家 岡村雄輔
出版日2013年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2021/11/10 05:28登録)
(ネタバレなし)
 東京近郊にある人口三万ほどの海辺の町「加里岬」の町。そこは第一次大戦の少し前から、日本有数の加里(カリウム)の生産地として発展した地方都市で、戦後の現在は大企業「東方化学工業(E・C・I)」の工場が栄えていた。その年の4月のある夜、26歳の踊り子、青木奈美はさる経緯から、岬の広間を見下ろす低い山の望楼に身を潜めていた。広間の小屋には逢引らしい男女が入るが、先に女が小屋を出たのち、小屋の中から合図があり、奈美にこちらに来るように誘う。だがそこで奈美が見たのは、惨殺された死体だった。先の合図のタイミング以降、小屋に近づいた者は誰もいない、これは密室状況の殺人だった。

 1961年刊行の「別冊宝石」106号「異色推理小説18人衆」版で読了。本作の作者改定稿版の初出誌であり、神津久三の挿し絵がなかなか味わい深い。
 長編に一応分類していい紙幅だとは思うものの、長めの中編みたいなボリュームでもあり、さらに登場人物が多彩な感じでサクサク読める。
 メインヒロインのひとりで事件の観測役を務めた奈美の証言は疑わないものとして(その前提が揺らいだら、さすがに本作はパズラーにならないだろう)、なかなか魅力的な謎の提示だが、解決はああ、そう来たか、という感じ。やや強引な感触はあるが、フィクションの枠内のトリック作品としてはこれはこれでアリ、ではあろう(ただし犯罪の形成がナンなので、読み手の推理で全貌を先読みすることはまず無理だとは思う)。
 サブスト―リー的に配された、某・謎の人物の正体など見え見えだが、これはまあ、原型の初出年の世相を踏まえて、素直に受け取るべきか。
 昭和のB級……というか1.5流パズラーとしてはそこそこ楽しめる、かな。残りの二長編もそのうち、いつか読んでみよう。
「インディアンみたいな」と修辞された(長身で浅黒く、頭に羽根飾りが似合いそう、ということらしい)、主人公の青年探偵・秋水魚太郎の描写はちょっと愉快。性格的には、特に目立つ個性はあまり感じなかったけれど。
(最後にちょっとだけ顔を出す、秘書役の女の子がちょっぴり気になった。)

No.1 6点 nukkam
(2015/03/15 00:58登録)
(ネタバレなしです) 活躍時期が1949年から1962年と短かった岡村雄輔(1913-1994)の最初の長編作品で1950年に発表された本格派推理小説です。この作者は1951年あたりから作風に叙情性が加わったと伝えられていますが、それより以前の作品である本書も決して謎解き一辺倒ではなく人物描写にも(多少性格が誇張気味のところもありますけど)配慮してあって謎解きと人間ドラマの融合を試みています。ヴァン・ダインの「ケンネル殺人事件」(1932年)をちょっと連想させる複雑な真相が印象的です(トリックは全くの別物ですが)。なお本書は1962年の改訂版もありますが、論創社版の「岡村雄輔探偵小説選Ⅰ」に収められた原典版の方が現代風仮名づかいに改めてあって読みやすくなっておりこちらがお勧めです。

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