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ミステリの祭典

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殺人稼業
私立探偵マイケル・シェーン

作家 ブレット・ハリデイ
出版日1961年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/10/13 05:21登録)
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦が進行する1944年の秋。秘書ルーシィ・ハミルトンとともにニュー・オリンズに事務所を開いていた私立探偵マイケル・シェーンは、老夫人ミセス・デルレイから相談を受ける。夫人が先日、彼女の息子で20代の若者ジミー(ジム)から受け取った手紙によると、ジミーは5年ばかりメキシコの鉱山でトラック運転手として働いていた。だがそのために所定の徴兵要請に応じ損ねてしまっていたという。そんなジミーはメキシコ周辺のアメリカ国内の町エル・パソで、ある人物の世話を受け、順当に従軍できるよう便宜をはかってもらったらしい。しかし彼はその恩人の頼みで、現地に潜むスパイ団の調査に協力するようだった。そしてデルレイ夫人は、その町エル・パソで先日、一人の青年軍人が死亡した新聞記事をシェーンに披露する。名前こそ違うが、それはスパイ団に接触して殺害されたジミーの変わり果てた姿では? と夫人は案じた。息子を思う夫人の心情を察したシェーンは、エル・パソの町に向かう。だがそこは実はシェーン自身が10年前にある事件に関わり合い、何人もの知己がいる町でもあった。
 
 1945年のアメリカ作品。マイケル・シェーンシリーズの第11弾。

 シェーンは、デビュー編から登場した最初のヒロイン、初代秘書で愛妻のフィリスを死産で失ったあと、古巣のマイアミを離れてニュー・オリンズに新たな事務所を開く(第9作『シェーン勝負に出る』から転居。ずっとのちにまた、マイアミに戻るハズ?)が、これはその時期の一編。詳しくは、本サイトに評者が投稿したシリーズ第10作『殺人と半処女』(本書の前作)のレビューを参照ください。

 メインの舞台となるエル・パソについてから、物語はかなり錯綜。個人的にこれまで読んだシェーンシリーズの中でも、トップクラスの複雑さを示す。

 しかしながら今回のシェーンは、依頼人ミセス・デルレイの息子ジミーの生死を確認するという大きな目的があるにも関わらず、その依頼人から息子の写真も預からず、顔や容姿の情報も授からない。この辺の外しぶりが、なんかおかしい。
 さらにシェーンが現地についてから、10年前に気ごころを通じた地元警察署の署長C・E・ダイアーやガーラック警視との旧交を温めるのはいいにせよ、直接の依頼にも関わらない(少なくとも当初は)土地の事件の情報がたまたま聞こえてくると、なぜかほいほい首を突込み、それが結果的に都合よく、本筋の案件に繋がっていく。
 ……あのー、このシリーズのファンがあえて言うけれど、これってかなりご都合主義の作劇じゃないんでしょーか。

 とはいえ終盤の事件の真相は、なかなか意外な方角から切り込んでくる感じで、その辺りは評価の対象。伏線もいくつか面白い感じで用意してある。逆に言えばここらの得点ポイントがなければ、かなり評価はキビシクなっていた一冊だけれど。
 
 なお登場3回目(だよな?)でレギュラーの座も落ち着いたはずの二代目ヒロインで秘書のルーシィ・ハミルトンは冒頭だけで出番が少ないのが残念。それでもお金のなさそうな依頼人デルレイ夫人の力になってやるようシェーンにさりげなく促したり、一方でシェーンが乗り気になると、お金になる仕事も考えてよねと苦言を呈したり、良い意味でお約束の言動がかわいい。
 一方で死別したフィリスのことは本作の文中に一度も名前すら出ないが、エル・パソで10年ぶりに再会した知人に「結婚はしてるのか」と聞かれたシェーンが「してない」とただ一言返すあたりの描写なんかしみじみ胸に応える。いやまあ、ファンの過剰な思い込みかもしれんのだけど(汗)。

 ちなみにハリディがこれを書いてるのと同じころ、のちの奥さん(1946年に結婚)マクロイは『逃げる幻』を書いてるんだろうな。のちの夫婦そろって世界大戦の後半、戦時下のまとめ的な作品を執筆していたわけで、その辺を考えるとちょっと感慨深い。

No.1 6点
(2014/12/16 22:03登録)
1945年に発表されたマイケル・シェーン・シリーズ第11作の舞台は、彼の地元マイアミではなく、メキシコにごく近いエル・パソです。本拠地から2000キロ以上も離れたそんな町でも、シェーンの名前は地元警察に知られているほど有名な私立探偵ということになっているんですねえ。
シリーズの中でも、白眉と言われると作品紹介には書かれている作品です。実際、これはなかなかよくできています。実はシェーンが事件を調査し始めてすぐ、なぜはっきり確認しておかないのだろうと思った点が一つあったのですが、それが真相に直結していました。その意味では確かに作者の都合で話を進めるためにごまかしているとは言えるのですが、犯人の側からすればまさかそんなことが起こるとは予想できないでしょうから、犯罪計画としては安易な妥協はありません。
そのご都合主義を除けば、市長選挙戦をめぐるハードボイルドらしい展開も、最後の謎解きも楽しめました。

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