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ミステリの祭典

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第四解剖室

作家 スティーヴン・キング
出版日2004年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2025/07/17 00:34登録)
本書は短編集“Everything’s Eventual”を二分冊で刊行したもののうちの1冊。
なんと今回キングは収録作の順番をトランプで決めたそうだ。出版社から送られたリストに振られた番号に基づき、エースからキングまでの1~13までのカードにジョーカーを加えた1枚を14番としてシャッフルし、出てきたカードの順番で決めたとのこと。いやはや何とも変わったことをするものだ。ある意味収録順番で悩むよりもこういうやり方の方がすっきりするのかもしれない。ちなみに次の短編集の際はタロットカードで収録順を決めるらしい。

全6編。その内容はいつものことだが実にバラエティに富んでいる。
生きながら解剖される危険に直面する男の恐怖を描いた表題作。
少年時代に遭遇した悪魔との邂逅が「黒いスーツの男」。
心神喪失状態のセールスマンの自殺までの迷いを語った「愛するものはぜんぶさらいとられる」。
20世紀初期のギャングスタ―、ジョン・ディリンジャ―のある事件を描いた時代小説「ジャック・ハミルトンの死」。
麻薬密売人との癒着を疑われた新聞記者が密室で拷問を受ける「死の部屋にて」。
最後は〈暗黒の塔〉シリーズの外伝「エルーリアの修道女」。

サスペンス、ホラー、前衛小説、時代小説にダークファンタジーとたった6編の作品でありながらこれだけのジャンルが詰まっている。モダンホラーの帝王と呼ばれるキングだが、彼の多彩ぶりが窺えるのが短編集だ。

ところでキングの短編集には長い序文がつきものだが、今回彼が本書を著した動機が実に面白いので紹介しておこう。
キングは実は地元バンゴアで2つのラジオ局を経営しており、1つはスポーツ中継専門局でもう1つはクラシック・ロック専門局だ。しかしそれら2つのラジオ局の経営状態はよろしいとは云えず、毎年赤字状態である。
キングはこの状態をどうにか解消したいと考えたのがラジオドラマを自ら書いて放送してリスナーを増やそうというアイデアだった。自分の局で話題になればその評判から全国のラジオ局へ展開し―これは『ブラック・ハウス』に登場したDJヘンリー・ライデンが持ち掛けられた話でもある―、その収入で赤字を補填しようというものだった。
しかし小説とドラマシナリオは別物であることを悟り、結局短編小説を書くことにしたのだと云う。

そしていつもキングは短編集の市場が縮小の一途を辿っていると述べているが本書でも同じだ。しかしこの2002年に刊行された本書では、キングの意向によって本短編集に収録できなくなった「ライディング・ザ・ブレット」が電子ブックで刊行されたとき、いつもは空港のラウンジに座っていても無視されるのにその時は周囲に人だかりができたり、テレビ出演依頼が来たり、タイム誌の表紙を飾ったりととにかく注目されたらしい。
しかし小説の内容ではなく、電子ブックという出版形式でこれまで以上に売れたことに対する興味に話題が集中したことに対して作者はある種複雑な思いを抱いているのが滲み出ている。この頃は電子書籍が新たな出版の形式であり、将来は紙の書籍を圧倒するのではと思われていたがキングはあくまで作品を届ける手段の一つだと云うに留めている。

さて本書には珍しく各短編にキング自身のあとがきが付けられている。そこには各短編のアイデアの素となった彼の原初体験や元ネタが明かされている。
キングはデビュー作からそうだが、今まであった、古来の物語のモチーフや映像作品を彼の天性のストーリーテラーの才能で以て脚色する。それは単に恐怖だけでない、読者の心情になにがしかの爪痕を残すのだ。そこがキングを他の作家たちとを分ける要素だと云えよう。

さて冒頭にも述べたように、本書は短編集“Everything’s Eventual”を二分冊で刊行したもののうちの1冊である。原題は『なにもかもが究極的』という意味で、序文によればこれは収録された短編の作品の題名でもあるらしい。
しかし本書を読んだ限りでは究極的というほどのものではなかった。トータル的に見ればキングとしては標準レベルの作品といったところだ。

また初期の短編集と異なり、いわゆる超常現象や怪異を扱った作品が明らかに減っている。悪魔が登場する「黒いスーツの男」と〈暗黒の塔〉シリーズ外伝のダークファンタジーの2編しかない。
今回は二分冊のうちの1冊だから総合的な判断は次の『幸せの25セント硬貨』を読んでの判断となるが、6作中2作はこれまでの打率から考えてもかなり低く、単なるモダンホラー作家からの脱却、いやあらゆるジャンルへの挑戦の意欲が窺える。
前半戦は上記のような評価に留まった。後半の巻き返しに期待したい。

No.1 6点 ∠渉
(2014/12/07 14:45登録)
表題作『第四解剖室』の迫りくる緊張感とわが道を行くオチにもう心うばれてしまいましたが、他にもかなり良いのが揃っているなぁ、と。

『黒いスーツの男』/少年時代に見た不気味なスーツの男は実在したのか、夢だったのか。老人が回顧する少年時代のいびつな思い出。

『愛するものはぜんぶさらいとられる』/自殺願望を持つ、「トイレの落書き収集家」のセールスマン。彼のささやかな幸せが自殺を前に悲哀へとかわっていく。

『ジャック・ハミルトンの死』/どんな窮地にも絶えず、強固になっていった3人のワルの友情とその最期の物語。史実を基に作り上げたアメリカ大不況時代のファンタジィ。

『死の部屋にて』/囚われの身になった男の、尋問室からの大逆転、大脱出サスペンスアクション。こんなのもできるのかー。ブルース・ウィリスらへんにやって欲しい!

でもってラストは<ダーク・タワー>シリーズの番外編が収録。ローランドがひたすら大変な目に遭います。ファンはやっぱり見た方が。

非常にバラエティ豊かで、とっくのとうにホラー作家の殻は破ってます。まぁでも怖いんだけどね。

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