闇に香る嘘 |
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作家 | 下村敦史 |
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出版日 | 2014年08月 |
平均点 | 7.09点 |
書評数 | 22人 |
No.2 | 7点 | kanamori | |
(2014/12/06 23:19登録) 人工透析を受けている孫娘のために、「私」村上和久は中国残留孤児だった兄・竜彦に腎臓移植のドナー検査を依頼するも、何故か拒絶される。和久は”兄”が血縁のない偽者ではないかと疑い、真相を突き止めようとするが---------。 第60回江戸川乱歩賞受賞作品。各選考委員絶賛で、今週の週刊文春ミステリーベスト10総括でも、千街晶之氏が「乱歩賞六十年の歴史に残るであろう傑作」と最上級の評価をしていたので期待して読んだ。 「私」は、戦時下満州の劣悪環境が原因で41歳のときに失明している。つまり、盲目の主人公による一人称視点という困難な設定に挑戦している点が素晴らしい。 当然ながら情景描写はなく、触覚、聴覚、臭覚で得た情報だけで謎解きが展開されるのだけど、この設定がミステリの仕掛けの部分に巧く活かされ、終盤の驚愕の反転図につながっています。中盤までは、戦時中の満洲でのエピソードや視覚障碍者の実情が事細かく語られ”じれったい”展開ですが、それらのなかに張られた伏線が最後にきれいに回収され、まさに人間ドラマと謎解きが見事に融合していると思います。 なおネットの感想などで、ロバート・ゴダードの「闇に浮かぶ絵」からのパクリ疑惑を見受けますが、”正統を名乗る二人”の真贋テーマは昔からある題材(=たとえば、カーの「曲がった蝶番」)ですし、プロットも作風も全く異なっていると思います。 |
No.1 | 9点 | HORNET | |
(2014/11/09 10:38登録) 69歳の全盲の視覚障碍者が、中国残留孤児であった兄に孫の腎臓移植の適正検査を頼んだところ、それを拒んだことから「兄は偽者ではないか?」と疑い、独自に調べていくストーリー。「私こそが本物の兄だ」と名乗る中国籍の男も現れ、「どちらが本物なのか?」という意識で読み進めてしまう中、最後の着地点は見事。主人公が調べていく中で要所にちりばめられる伏線も、納得のいく回収の仕方で全て真相につながっており、その手腕には感服する。 全盲になったことから娘との絆が壊れてしまった主人公が、孫娘の腎臓移植に道筋をつけることで何とか娘との絆を取り戻そうとする複線も、物語にヒューマンドラマ要素を付加していて非常に効果的。最後の結末は、誰もが心を温かくして終えることができ、読後感も◎。 江戸川乱歩賞受賞作家の今後の活躍に期待したい。 |