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ミステリの祭典

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カクテル・ウェイトレス

作家 ジェームス・ケイン
出版日2014年08月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 猫サーカス
(2017/10/28 13:09登録)
酒に溺れて暴力をふるう夫が事故死し、ジョーンは幼い息子を義理の姉に預けてバーで働き始める。そこで知り合った裕福な老人とハンサムだが貧しい青年。ジョーンは息子との理想の暮らしのため富豪を選ぶが・・・。物語はジョーンの一人称で語られる。誰もが最初、世間知らずの美しい女性に共感を覚えるでしょう。やがて彼女が「信頼できない語り手」である可能性がちらつきはじめ、徐々に落ち着かなくなっていく。物語は不安と疑惑の不協和音を響かせ、真相を読者に委ねて終わる。巧みで怖い。

No.1 7点 Tetchy
(2014/09/14 00:55登録)
本書はジェームズ・M・ケインが生前に遺した幻の遺作であり、よくぞ訳出してくれたとまずは新潮社の仕事に敬意を表したい。

若き未亡人ジョーンがカクテル・ウェイトレスと云うちょっと露出度の高い制服を着て給仕をする職につくことで富豪の老人に出遭い、状況が好転していく様は『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』の系譜に連なるシンデレラ・ストーリーとして読ませる。
しかしそこはケイン。「そしてジョーンはお金持ちと結婚して幸せになりました」的なお伽噺のようには物語は展開しない。

数々のファム・ファタール、悪女を描いてきたケインが最期の作品で書いたのはその容姿と状況ゆえに図らずも悪女に祭り上げられ、マスコミや周囲の好奇の的とされる不遇な女性の物語だった。不遇な女性の立身出世のシンデレラ・ストーリーはケインの手によるとこんなダークな色合いに変わる。
確かに手記ならばジョーンの告白には虚偽が挟まれている可能性もあるだろう。つまりジョーンは自らの犯行を隠ぺいするためにこの手記をしたためた、いわゆる信頼のおけない書き手であるかもしれない。しかし私はそこまで読み込む、いや疑いの眼差しで読むことはしなかった。本書をそのまま受け入れ、単なる伝聞での上っ面だけの情報だけでなく、その目で確かめて本質を見極めた上で自身の考えで判断なされよ。そんなメッセージが込められているように感じた。

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