消えた街燈 ホレイショ・グリーンシリーズ |
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作家 | ビヴァリイ・ニコルズ |
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出版日 | 1958年01月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/11/23 05:23登録) (ネタバレなし) 1952年の大晦日。64歳になる音楽評論家で准男爵のエドワード・カーステアズが、何者かに刺殺される。ロンドン警視庁のベテラン刑事、ジョージ・ウォラー警視が捜査を担当するが、一方で休業中の大物オペラ歌手、ソニア・ルービンスタインも天才的な老名探偵ホレイショ・グリーンに事件の調査を依頼。現在は引退状態だったグリーンだが、事件に関心を抱いて活動を始めた。やがて事件の鍵となるらしい未公表の交響曲の存在が明らかになり、かたや被害者エドワードの秘めた顔と彼の周囲の人間関係が暴かれていくが……。 1954年の英国作品。60歳の名探偵ホレイショ・グリーンのデビュー編。 たしか一年くらい前、評者がミステリ界の某ビッグネームファンとメールでやりとりをして、その際に「論創社の海外ミステリシリーズで今後、未訳作品を発掘してほしい作家」を話題にしあったところ(笑)、先方が推してきたのが、このビヴァリイ・ニコルズであった。 本作『消えた街頭』などポケミスで翻訳された二冊は、ちょうどその少し前に、そんなに高い値段ではなく古書で入手していたので「へえ……(そんなに期待できそうな作家なのか)」と、改めてこの作者を意識した。 そんな流れで、すぐ楽しんでしまうのがちょっともったいなくなってページを開くタイミングをうかがっていたが、昨日~今日になって、まずはこのシリーズ第一作を読んだ。 作者ニコルズの<若い頃から非常に幅広い分野の著作をものにしながら、ミステリ作家としては55歳で遅咲きデビュー>という経歴はちょっと異色だと思うが、そもそも英国のパズラー系で50年代の半ばにデビューという作家が、あまり想起できない。たとえばゴーテ警部もののキーティングなんか、59年にノンシリーズもので長編デビューみたいだが。 (まあうっかりものの評者のことだから、結構な大物を忘れてたりするんだろうけど・汗)。 それでとりあえず本作の内容だが、おや、こういう話、という印象。音楽界が舞台ということも読んで初めて知ったし、そもそも邦題から、第二次大戦の爆撃であちこちの街灯が壊れたロンドンの街(カーの『囁く影』みたいな)40年代後半の雰囲気を勝手にイメージしていた。ところが現物はそれなりに復興の進んだ、しかしまだ大戦の影がうっすら宿る時節のイギリスでの話であった。 そんな実際の小説&ミステリの出来としては、さすがに書き慣れた作家だけあって、登場人物の書き分けもストーリーテリングも期待以上にうまい。ポケミスの裏表紙では(たぶん都筑道夫が)「文学的香気高い筆致、純文学作家ならではの見事な着想」と賞賛しているが、ブンガクとしてのレベル云々はよくわからない評者でも、端々に効かせた英国流ドライユーモアの感覚はなんとなく感じ取れる。 特に中流階級と上流階級の格差意識を揶揄する要所の人物描写は辛辣で、それが(中略)。 最後の犯人の意外性と、こんな大技を用意していたのか! と嬉しくなるようなメイントリックにも個人的には大いに沸いた。 (まあnukkamさんのおっしゃることもよく理解できますが、私的には、作中の当該者の思考としてはギリギリ、アリだとは思う。なによりこの外連味いっぱいの大技が、ミステリとして本当に楽しかった)。 心やさしい、そして人間臭い、初老の紳士探偵ホレイショ・グリーンも名探偵キャラクターとして魅力的。 そのうち『ムーンフラワー』を読むのが、改めて楽しみになった。 しかし「世界ミステリ作家事典」の作者ニコルズの項目を探ると、残りの未訳のシリーズ3~5作のどれもこれも面白そうだね。これこそ発掘・再紹介すべき海外作家のダークホース筆頭かもしれない。 評価はかなり8点に近いという意味で、この点数。 |
No.1 | 6点 | nukkam | |
(2014/09/03 10:19登録) (ネタバレなしです) 英国のビヴァリイ・ニコルズ(1898-1983)の著作は小説、児童文学、戯曲、園芸書、旅行記、ノンフィクションなど実に広範囲に及んでいることで知られています。ミステリー著作はホレイショ・グリーンを探偵役にした本格派推理小説のシリーズを1954年から1960年の間に5冊発表しており、本書が1954年発表の第1作です。戦争の傷跡をまだ残す舞台や犯罪が醸し出す暗さとクラシック音楽の優雅さや飄々とした探偵役のグリーンの性格が上手いコントラストを演出していますし、トリックの大胆さ(必要性についてはやや疑問もありますが)や小道具の扱い方もなかなかの出来栄えです。ただハヤカワポケットブック版の翻訳(1958年の訳)はさすがに古くて読みづらいです。内容的には新訳版を出す価値は十分あると思いますが。 |