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ミステリの祭典

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黒い死
クルック弁護士シリーズ

作家 アントニー・ギルバート
出版日1954年07月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2020/06/10 03:10登録)
(ネタバレなし)
 第二次大戦を経た1950年代はじめの英国。第一次大戦での英雄だったエドワード(テディ)・レイン元大尉は、今は安宿「エリスン・マンション」12号室で暮らす56歳の孤独な麻薬中毒者になっていた。テディの収入源は二つ。ひとつは裏の世界に通じた薬剤師モォレルの麻薬売買を手伝うこと。もうひとつは知己や新聞などで見つけた相手の過去の秘密をネタに恐喝することであった。金に困ったテディはある日、現在恐喝中の四人の男女を同時に自室に呼び出し、その四人に一斉に金の無心を行う。だがこの状況は、テディにとって思わぬ事態を招き入れた。

 1953年の英国作品。恐喝者が被恐喝者の連携(?)によって反撃をくらい、やがてフーダニットになだれ込む(さらにまた後半にもミステリとしての趣向が用意されている)という筋立ては、確かにどこかクリスティーっぽい感じで面白かった。
 
 それで評者はまだギルバート作品は『灯火管制』しか読んでないんだけれど、そこではちょっとテクニカルな技巧を使っていたので、今回ももしかしたらこの辺はミスディレクションじゃないかしらとか、この辺の曖昧さは何らかの仕掛けじゃないだろうか、とかあれこれ考えながら読む。そういう作業はちょっと楽しかった。

 とはいえ(中略)が少ないくせに、これで最後に読者を驚かそうと不遜なコトを作者が考えているんなら、もう真犯人はあいつしかないよね、と思って、まんまと当たった。
 残念ながら今回も結局は『灯火管制』みたいな悪い意味での一回ヒネリみたいな感じ。
 ただまあ、その後のエピローグはちょっと気が利いてはいる。
 どうも全体的に不器用な感じなんだけれど、読者へのサービス精神みたいなのと、それを支える作者のミステリ愛のような感触は悪くはないです。

No.1 5点 nukkam
(2014/08/26 18:56登録)
(ネタバレなしです) 1953年発表のクルック弁護士シリーズシリーズ第27作です。ハヤカワポケットブック版の古い翻訳に苦しめられますがそれでもサスペンスの効いた物語が楽しめます。でもいくら後半からの登場とはいえクルックや助手のビル・パースンズが登場人物リストに載っていないのはちょっと可哀想な仕打ち(笑)。脅迫者が怯えるというプロットがなかなか新鮮ですがやはり悪役なのでいまひとつ同情できませんね(笑)。前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という作者得意の構成です。終盤の劇的な展開に読者は振り回されますが、その中にもしっかり謎解き伏線を忍ばせているのがこの作者らしく、エンディングも印象的。翻訳が古くなければもう1点加点してもよいのですが。

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