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ミステリの祭典

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地下組織ナーダ

作家 ジャン=パトリック・マンシェット
出版日1975年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 クリスティ再読
(2017/05/13 18:29登録)
本作は1975年出版のポケミスなんだけど、今は入手困難も手伝って伝説っぽくなってるらしいね。フランスのロマン・ノワールの第二世代って見ていい「政治の季節のノワール」筆頭、マンシェットの「狼が来た、城へ逃げろ」(というか「愚者が出てくる、城寨が見える」か..)によるフランスミステリ大賞受賞後第1作である。クロード・シャブロルによる映画化があるが、「中国女」とか「東風」を撮ってたころのゴダールだったら...という気がしないでもない。この人50ちょっとで死んだけど、フレンチ・ノワールを現代化した立役者みたいな人で、この後もイイ作品を書いているのが、伝説の所以のようだ。

今やってる生活ってのがどうにもこうにも鼻もちならなくなったのよ。何かぽこんとこう破裂させたかったんだな。

希望なんて持っていられやしねえ。そんな奴らのために俺は飲むんだよ。政治的に正しいとか下らねえとか、そんなことはかまっちゃいられねえ。

とかまあ、こういうアケスケでニヒルな衝動に突き動かされて、5人の男女によるアナキスト組織ナーダがアメリカ大使を誘拐する....がこれに対し、ゴエモン警部(Goemond警部。イイ名だねw)が指揮を執る警察側は、ナーダの潜伏場所を割り出して、投降も一切許さずガチンコの暴力で「殲滅」しようとする展開。極めて短い文が炸裂する、模範的なハードボイルド文でエゲツないヴァイオレンスが続く。国家というヤクザが、アナキストというヤクザにカチ込みにいく..という態。
まあ、冒頭の共和国保安隊(日本だと機動隊に相当するようだが、銃による武装が通常装備らしい)隊員の手紙で、ナーダが壊滅したのは最初にバラされているし、万が一にもうまく行きそうにもない誘拐計画(小説としてないない)だから、失敗は目に見えているのだが.....それでも一矢は報いている。

ブエナベントゥーラは答えなかった。トルフェがふるえてる手で手錠の鍵を外す。ゴエモンの死骸をまたいでブエナベントゥーラのそばへ走り寄った。膝をついた。ブエナベントゥーラがわずかの間、トルフェを見つめていた。そして、死んだ。

くぅう、ノワール、だね。再版か新訳でもすればいいのに。「膝をついた」の入り方が大好き!
後記:やや本作評点が辛すぎたと反省。1点プラスします。

No.1 7点 kanamori
(2016/09/19 22:34登録)
半端者の過激派グループ「ナーダ」の一員であるブエナベントゥーラ・ディアスは、アルジェリア解放戦争当時の盟友で、今は一匹狼のテロリスト・エポラールに偶然パリで再会した。彼をメンバーに加えた「ナーダ」は、かねてより準備を進めていた駐仏アメリカ大使の誘拐計画を実行に移すことに-------。

フランス”ロマン・ノワール”の旗手、マンシェットが1972年に発表したクライム・ノヴェル。
出世作である前作「狼が来た、城へ逃げろ」と同様に誘拐犯罪を扱っているのですが、アナーキスト集団によるテロというイデオロギー要素があって、本作には、かつて左翼運動家でもあった作者の信念が覗える部分があるように思います。ただ、グループの犯行動機は、思想的なものというより、どちらかというと社会から受ける閉塞感から、という感じが強いです。組織のメンバー誰もがどこかなげやりで虚無的なところがあるのです。
研ぎ澄まされた文体で短いセンテンスを続ける作風が特徴的で、後半の章割りを多くしたスピーディな展開にマッチしています。とくに、パリ郊外の百姓家に隠れたメンバーの男女5人と、包囲した警察隊との銃撃戦のシーンが大半を占める32章が圧巻で、非常にインパクトがありました。
ちなみに、本書の原題は”Nada”。作中のアナキスト・グループの名称ではあるのですが、訳者あとがきによると「何もない」を意味するポルトガル語ということで、救いようのない結末を踏まえると、シニカルで象徴的なタイトルです。

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