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ミステリの祭典

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穴の牙
短編集

作家 土屋隆夫
出版日1968年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 斎藤警部
(2016/03/14 20:13登録)
たとえばあなた、平穏無事に過ごしているつもりでも、あなたの周囲そこかしこに『穴』は有り、あなたがそこに陥るのを『牙』を剝いて待っている。世の流れから偶然と出来てしまう穴が多数だが、中には人間(あなたの敵、もしくはあなたの味方、まさかあなた自身。。)が意図を持って作り上げる穴もあり。

穴の設計書―立川俊明の場合 /穴の周辺―堀口奈津の場合 /穴の上下―木曽伸子の場合 /穴を埋める―戸倉健策の場合 /穴の眠り―加地公四郎の場合 /穴の勝敗―佐田と三枝子の場合 /穴の終曲―三木俊一郎の場合

各話冒頭に「穴の独白」なる(ちょっとあざとい、時にユーモラスな)プロローグが置かれる。「人間如きが一度嵌った穴から逃れようったって 云々。。」「穴どうしにも競争があり、この件では俺は○○の味方をして▽▽を陥れようとしたが、別の穴は▽▽に味方して○○を落とそうと。。」「□□は自分が穴に落ちておきながら、別の人間用に自分で別の穴を作ろうとしやがって。。」 等々。これらの短いつぶやきがストーリーの流れを暗示しているわけですが。。

第一作目「穴の設計所」が予想外に軽い、まるで鮎川哲也が気張らず書いた緩~い倒叙短篇(どうしてバレたんでしょうか?系)みたいだったもんで、全作そのタッチで行くのかな、それはそれで気楽でいいや、なんて思ってたらそれぞれ物語の構造も感触もタイプはバラバラ、わざわざ「穴」なんてナレーターを嵌めこんで無理に統一感を出そうとしたかのようでもある。各篇タイトル「穴のXX」の「XX」の言葉選びに必然性が見えないのが多いし。。(特に「穴の上下」なる一篇、まさかアッチのエッチな話かと思ったら、そういうわけでもなかったが、ともかくも意味不明な題名付け) 中に一篇、土屋さんの悲惨趣味(!)が抑えよう無く炸裂してる、とても印象深いのがあった。「日常のサスペンス」が陰惨無比な結果に繋がってしまった、というお話で。。 その一篇の結末を除けば、時に陰鬱な題材ながらも筆のタッチは軽いストーリーがほとんどで、おぞましい通し題名『穴の牙』はちょっと肩透かし。 でも、この手を愛好する向きにはじゅうぶん面白かろう。ミステリファン全般に強く推薦とは行かないが、土屋さんのファン、昭和30~40年代国産ミステリ好きの人にまずは絞って薦めたいところ。
ところである一篇にて、ふと弾みで登場した「橋尽くし」、〆めが「泪橋」だったのはどういうわけか泣けた。

No.1 6点 あびびび
(2014/08/02 16:42登録)
人々が犯罪に走るとき、待ち受けている穴があり、必ず深みにはまっていく。そんな感じの短編集だった。笑ゥせぇるすまんの喪黒福造的な短編集で、自分的には各編ともおもしろく読めた。

雑誌「宝石」の懸賞で短編部門の1位に(罪深き死の構図)なったのが推理作家デビューだというが、そのせいか短編集がけっこうありそうだ。

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