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ミステリの祭典

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希望(ゆめ)のまちの殺し屋たち

作家 加藤眞男
出版日2014年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2021/08/04 05:28登録)
(ネタバレなし)
 2013年の埼玉県さいたま市。妻帯者の設計士・田辺郁夫、デパートの呉服売り場担当の中年女性・鈴木佐恵子。受験生の樋口友也、そして……と、それぞれの人間が各自の事情で悩みを抱えていた。やがてその中から殺意の蕾が芽生えるが、一方で互いに縁も面識もなかったはずの彼らの物語は、奇妙な接点で絡み合っていく。

 島田荘司が選考を務める「本格ミステリー「ベテラン新人」発掘プロジェクト」で受賞して、60歳代でデビューした作者の2冊目の長編。

 なかなかテクニカルな作品ではある。
 たぶん評者を含めて大方のミステリファンは「実はAとBはこれこれの関係性であった。さらにCとDも……」というパターンに関しては「うまく面白くやってくれるなら良し。ゴタゴタつまらない見せ方ならゴメン」という感じであろう。
 その点、この作品は、並行して語られる複数の別個の主人公たちのストーリーが、どっかで何らかのキャラクターとかポイントで結びつくことを当初から裏表紙で明かしている。
 これは送り手の考え足らずなネタバレなどではなく、横溝の『黒猫亭事件』みたいに大ネタをさらけ出した上で読者との勝負にかかるタイプの作品ということのようだ(従って、もちろん今回のこのレビューも、ここまで書いてもネタバレに当たらない)。

 それで出来たものの感想は、フツーに書けばあまりに狭い箱庭的な舞台の窮屈さにウンザリしちゃうところ、むしろホイホイとあれもこれも関係性が浮かんでくる終盤の展開に奇妙な痛快さを覚える面もある。
 正にそれこそが本作の狙いであり、醍醐味だろう。

 まあその代価として作品世界のリアリティはほとんど無くなり、大人のおとぎ話みたいな仕上がりになってしまった面もあるんだけど。
(虫暮部さんがおっしゃっている「魔法の出て来ない日常のファンタジーみたいなもの」という感覚は、そういう意味でしょうね。)

 ただまあ、その辺は技巧派ミステリにありがちな気質でもあるし、個人的にはあまり気にしない。なんか1970~80年代の角川文庫の新訳翻訳ミステリとして刊行された、気の利いた編集者や翻訳家がどっかからか見つけてきたマイナーな、しかしちょっと洒落たその手の変格ミステリーみたいな味わいでもあった。

 一方で気になったのは、最後のパートでその実は……実は……の膨大な「意外な人間関係」という情報を捌くため、とにかく某キーパーソンの説明が長すぎたこと。これだけ言葉を費やせば、かなりのイクスキューズはあれやこれやに用意できるよな、という感じであった。
 あと、そういうメルヘンチックな側面もある作品だからいいんだけど、まとめ方が良くも悪くも(中略)すぎるかもね。

 作者はこのあとは作品を書かずに消えてしまったようだけど、もう少し書きなれてこなれてきたら、なんかもっとさらに……なものはあったかもしれない。まあそんな一冊。

No.1 5点 虫暮部
(2014/06/26 20:02登録)
警察の動きが非常に恣意的で嘘っぽいな~。ミステリというよりは、魔法の出て来ない日常のファンタジーみたいなもの。軽く読み流す分には良いが、それ以上の過大評価は避けたい。

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