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ミステリの祭典

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悪と仮面のルール

作家 中村文則
出版日2010年06月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 小原庄助
(2017/11/22 09:28登録)
人間の悪意とは何かを徹底的に問い詰めた小説。
私たちの身の回りにある小さないじめから、殺人、戦争による大量虐殺まであらゆる悪について、登場人物同士の対話を通し読者に問いかけている。これは、まさしく哲学小説である。
表層に流れているのは「邪」の家系に生まれた主人公の男が、父親の悪の継承者としての刻印を乗り越え、恋愛を貫き通して、邪の家系を断ち切ろうとする物語だ。
刑事、探偵、テログループなどが登場し、ミステリタッチで描かれ、悪の象徴である父親を殺す話は、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」と呼応している。また登場人物による長い哲学論議は、埴谷雄高を想起させる。現代文学は哲学的な要素を欠く作品が多いが、前作「掏摸」に続いて悪の問題に固執する作者の姿勢に脱帽する。
「幸福」とは、苦しみや悲痛を持つ人間たちを無視し、飢えや貧困を無視した上に成り立つ、との忌むべき父親の言葉が妙にリアリティーを持つのは何故なのか。作者は、巻末で絶対悪に対して、愛の力や可能性を提示する。ドストエフスキーは「神」という概念でその愛を表現したが、現代を生きる私たちに果たして希望はあるのかと考えさせられた。

No.1 5点 蟷螂の斧
(2014/05/30 21:27登録)
「BOOK」データベースより~『父から「悪の欠片」として育てられることになった僕は、「邪」の家系を絶つため父の殺害を決意する。それは、すべて屋敷に引き取られた養女・香織のためだった。十数年後、顔を変え、他人の身分を手に入れた僕は、居場所がわからなくなっていた香織の調査を探偵に依頼する。街ではテログループ「JL」が爆発騒ぎを起こし、政治家を狙った連続殺人事件に発展。僕の周りには刑事がうろつき始める。しかも、香織には過去の繰り返しのように、巨大な悪の影がつきまとっていた。それは、絶ったはずの家系の男だった―。刑事、探偵、テログループ、邪の家系…世界の悪を超えようとする青年の疾走を描く。芥川賞作家が挑む渾身の書き下ろしサスペンス長編』                    ウォールストリートジャーナルミステリートップ10(2013)に選出されたとのことで拝読。探偵、刑事が登場するも、ミステリー要素は少ない。悪を描くことにより人間を描くという文学的要素の色彩が強い作品でしたね。芥川賞作家ということで、少し斜に構えて読んでしまいました(笑)。主人公の中で、香織が偶像化されてしまい、彼女の人物像がいまいち伝わってこなかったのが残念です。

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