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ミステリの祭典

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トム・ゴードンに恋した少女

作家 スティーヴン・キング
出版日2002年08月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2024/12/28 01:53登録)
キング作品にしては珍しく300ページ強の比較的短めの長編。
本来ならばこのような少女の失踪事件が起きると行方不明のトリシアの決死行のドラマと彼女を捜索する側のドラマも描くのが定石だが、キングはそうしない。
キングはトリシアというこの1人の少女の孤独な戦いをじっくりとねっとりと描いていくのだ。

私が今回最も不穏だと感じたのは実は本書の題名である。
『トム・ゴードンに恋した少女』
そう、過去形になっているのだ。キングの物語が全てハッピーエンドに終わらないのは有名だ。従って本書の主人公、弱冠9歳のトリシアはもしかしたら助からないのではないかと読んでいる最中、心中穏やかではなかった。

そしてその不穏な想いに追い打ちをかけるようにこの少女の孤独なサバイバル行をキングはどんどんスーパーナチュラルな方向へ持っていく。彼女を襲うのは虫や腹痛や体調不良だけでなく、彼女を見つめる特別な「あれ」が出てくる。
物語の半ば、彼女は3人の人物と森の中で遭遇する。1人は彼女の通うサンフォード小学校の先生に似ており、もう1人は父親に似た男。そして最後はスズメバチの大群で出来た顔で彼女を森で見張る存在だと述べる。

悲しいかな。最後にトリシアが心通じ合うのは一緒に暮らしている母親ではなく、別れた父親の方なのだ。彼女が父親から貰ったトム・ゴードンのサイン入りのキャップこそが彼女を見事生還させる勇気のアイテムになったからだ。そして2人には野球という、いやレッドソックスという共有言語があるために言葉などいらない通じ合うものがあるのだ。
願わくばこの彼女と父親の魂の交流を機にこの夫婦が寄りを戻してくれればいいのだが。全てを語りがちなキングには珍しく、マクファーランド家の行く末について余韻を残した作品だ。

No.1 7点 ∠渉
(2014/04/21 20:13登録)
少女が森で迷子になる話です。
ひたすら迷子になる話なんですが、少女の成長記として読めたり、スリラーな感じもするし、家族の愛情とはなんぞやって読み方もできるし、ファンタスティックな匂いもします。森で迷子になっただけなんですが、深い緑地に囲まれる様は人間の不安の心理とうまく重なるし、不安と恐怖を超えて極限状態に陥る心理描写も巧く、強く生きようとする少女の姿には唸らせられました。
物語のひっぱり具合は、流石キングといったところ。もはや名人芸。

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