刑事コロンボ13の事件簿 刑事コロンボ |
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作家 | ウィリアム・リンク |
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出版日 | 2013年08月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | おっさん | |
(2013/10/30 10:51登録) 論創海外ミステリ第108巻は、アメリカ本国で2010年に刊行された、刑事コロンボのオリジナル短編小説集(原書The Columbo Collection 収録の全十二話にくわえ、同書・限定版ハードカバーの特別付録として別添された十三話目も、収録されています)。 著者は、TV版シリーズの産みの親のひとり(プロデューサー、脚本家としてともに同シリーズを立ち上げた、相方リチャード・レヴィンソンは、1987年に死去)。 でもって訳者は、日本のコロンボ研究家ならこの人、町田暁雄氏。 版元も、版権を取って出す気合の入れようです。 筆者は子供の頃、NHKテレビでコロンボに出会い(最初に見たのは『祝砲の挽歌』。幸せな出会いでした)、二見書房から出ていたノベライゼーションも買い求めて読んでいた世代なので、コロンボと聞くと、つい当時――自分がいちばん夢中になっていた1970年代の想い出に惑溺してしまいそうになります。 しかしこの作品集の舞台は、まぎれもない21世紀。コロンボのお馴染みのレインコートのポケットには、いつのまにか携帯電話がおさまっています。 「現代であるべきなんだ。(・・・)新しい読者――若い読者たちには、現代が舞台の方がいいはずだ。(・・・)あの本は、当時のファンに向けて書いたというわけじゃないんだ」とは、「訳者あとがき」で紹介されている、ウィリアム・リンクの言。 うむ。その意気や良し。 収録作は―― ①緋色の判決 ②失われた命 ③ラモント大尉の撤退 ④運命の銃弾 ⑤父性の刃 ⑥最期の一撃 ⑦黒衣のリハーサル ⑧禁断の賭け ⑨暗殺者のレクイエム ⑩眠りの中の囁き ⑪歪んだ調性(キー) ⑫写真の告発 ⑬まちがえたコロンボ ①を読んで、ひとまずオールド・ファンも安心しました。確かに“現代”のお話だけど(被害者がレイプ事件の容疑者だったりします)、犯人の設定といい手掛りの提示といい、旧TVシリーズを彷彿させる要素を盛り込み、サービスすることを忘れていません。 「訳者あとがき」(収録作への駄目出しの数かずがまことにユニーク)で適切に述べられているように、犯人のミスにまったく説得力が無く、お世辞にも出来がいいとは言えませんが、これを巻頭に持ってきた意味はよくわかります。 この「緋色の判決」は、いかにもコロンボ的な(カメラ、もとい視点がラリーのように、犯人、探偵間を往復する)倒叙スタイルの対決もので、かつ犯行動機は読者に伏せられているという趣向でしたが、本書の特色として、コロンボ・シリーズと聞けば誰しも思い浮かべる、そうした倒叙ものと、それにこだわらない、読者への伏せごとをより重視した、非倒叙ものがほぼ交互に配列されていることがあげられます。 まことに思いきった試みですが、これも、自分はナツメロ歌手ではないという、リンクの主張の現われでしょうね。 轢き逃げ事件の捜査が悲しい真相を浮かび上がらせる②は、そうした新傾向の成果です。謎解き自体は緩いものの、ラストのツイストが効果的で、短編ミステリとしての余韻は上々。 作品の出来とは別にコロンボ・ファンに“刺さる”のは、コロンボの愛犬“ドッグ”(バセットハウンド)がすでに亡くなっていた、という事実でしょう(この、コロンボが犬を飼っていたという設定が、「失われた命」のストーリー後半で利いてくるあたり、さすがにリンクのドラマづくりは巧い)。本の中にまったく姿を見せない“ドッグ”を、あえてジャケットの装画のまんなかに持ってきた、制作者の想いにも打たれます。 非倒叙もので、もうひとつ注目作をあげるなら、ロス市警の刑事殺しをあつかった⑧になります。犯人の正体はほぼ自明ですが(TV版の傑作のひとつを想起させ、旧作ファンの琴線に触れまくり)、その人物は嫌疑を免れるため、現場であるトリックを使っており(おお、土屋隆夫だw)、それを効果的に暴露するための、非倒叙仕立てですね。ただ、この犯人の行動は、計画犯罪にしては、あまりにリスキーすぎます。それに、通常の捜査の範疇で、動かぬ物証が発見されるのは、まあリアリズムなんですが、あの「TV版の傑作のひとつ」と対になるような設定を用いた以上、最後は例の作にならって、コロンボの卑怯なw 逆トリック(逮捕のための罠)で決めてもらいたかった。 全体に、プロットの練り込みがもうひとつ、の感は否めません。合作パートナーだったレヴィンソンの存在が、いかに大きかったか、ということでしょう。 それでも、正統的な倒叙路線に戻ると、表題作の⑦、⑨、そして⑫あたりは、水準以上。 あれ、これってみんな、女性犯人ものだ。まずい、筆者のオンナ好きがバレてしまう! と思ったら、よかった、 kanamori さんの書評でも、このへんが推されていますw 集中のベストは、やはり、浮気の証拠写真を見た妻が、夫殺しを決意、実行に踏み切るが・・・という、⑫「写真の告発」。 お話の収束性、趣向の合わせかたの美しさで、頭ひとつ抜けています。くわえて、ラストがじつに“絵”になる。これは是非、ドラマでも観てみたかったなあ。 そうそう、もう一つだけ。 前述のように、本書の⑬は、いわばボーナス・トラックの小品――にして、コロンボの正真正銘の“まちがい”が付きつけられる、異色作です。 「訳者あとがき」ではラストの「解釈が難しい」とされていますが・・・こなれた訳文を読むかぎりでは、最後のセンテンスの意味合いは明解です。あるいは原文は、意味深な(多様に解釈できる)表現なのか? もしそうであるなら(法解釈ではなく、英文解釈の問題であるなら)、「あとがき」には、問題箇所の原文も引用しておいて欲しかったですね。 |
No.1 | 5点 | kanamori | |
(2013/10/09 20:37登録) TV版「刑事コロンボ」や「エラリー・クイーン」「ジェシカおばさんの事件簿」など、数々のミステリ・ドラマの脚本をリチャード・レビンソン(1987年死去)とのコンビで手掛けてきた作者の、刑事コロンボ・オリジナル作品集。 ジャンル投票は”倒叙”としましたが、7編の倒叙と6編の非倒叙作品が交互に収録されています。ただ、捜査側から描写される非倒叙もののコロンボ警部はごく普通の刑事で、ピーター・フォーク演じるドラマのイメージとは違う感じを受けます。やはり、犯人視点で描写されるコロンボのほうがしっくりきます。 収録作の中では、ロイ・ヴィガーズの迷宮課モノを連想させるプロットの「写真の告発」がよかった。 あとは「黒衣のリハーサル」「暗殺のレクイエム」がまずまずの出来かなと思いますが、全体的にコロンボが犯人を落とす”詰め手”にキレや意外性がないのが物足りないです。 |