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ミステリの祭典

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作家 菅原和也
出版日2013年08月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2020/07/18 22:44登録)
キャバクラのボーイ・透は、キャバ嬢・エコの送迎中に、路上で首なし死体に遭遇してしまう。動揺する透に、エコは「死体の首を切断する主な理由」を淡々と講義し始めるのだった。透は過去に弟を亡くして以来、消極的な人生を送っていたが、エキセントリックなエコに引っ張られるように、事件の捜査に巻き込まれていく―。最後のページを読み終えた時、最悪の絶望が待っている。横溝賞史上最年少受賞者が放つ、二度読み必至、驚愕の本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

最初から作者の意図は察していたので、どこでどんな伏線を張ってくるかなと思いながら読み進めました。やや弱いと思われる部分もありましたが、「重力密室」などはなるほどそう来ましたかって感じでニヤリとさせられました。
スイスイと読めますし、横溝正史賞受賞作よりも随分こなれた文章になっていると思います。探偵役のエコは可愛げがないものの、どこか親近感を覚えて個人的にはかなり好感度が高かったですね。いきなり冒頭で登場する首なし死体を前にして、冷静に切断する理由を三つに分けて語り出す奇矯さに、唖然とさせられます。がその後の人物描写には変わり者という以上に、逆に人間臭さを覚えたりもします。


【ネタバレ】


最後は後味の悪さが残りますが、結局首を切断する理由は単純なもので、鑑識か司法解剖でその痕跡を暴けたはずなのではないかと疑問に思います。作者としては周到に仕掛けを施したつもりかも知れませんが、ミエミエですね。それでも十分楽しめたのは、途中であれ?と思わせてくれるので、ひょっとして自分の思い違いなのかと若干でも疑ってしまったためです。でも結果そのまんまだったのは、ちょっぴり萎えましたけどね。

No.1 6点 人並由真
(2018/09/02 20:20登録)
(ネタバレなし)
 キャバクラ「フォクシー」の従業員である24歳の青年、安永透は21歳のキャバ嬢「エコ」を車で送るその夜、首を切断された若い娘の惨殺死体を発見した。やがて透は、怪しげな探偵事務所とも縁のあるエコから、似たような猟奇殺人事件が半年前にも起きている事実を指摘される。そんななか、フォクシーの常連客で、透とも面識のある中年の翻訳家・月島健二の周辺に不審な人物の存在が認められ、透はエコとともに月島のマンションに赴く。だがそこで透たちが出くわしたのは、殺人者が侵入不可能な状況「重力密室」での怪異な殺人事件だった!
 
 菅原和也の第二長編。比較的コンスタントに秀作・佳作を放ち続ける作者だが、これもケレン味満載な上に頗る高いリーダビリティでサクサク読み進められる。冒頭から、主人公・透の三人称視点とは別の流れで謎の殺人者が登場する。とはいえ登場人物の絶対数が多くないこと、何らかの仕掛けがあるだろうという予想から、犯人の正体を察するのはそう難しくないだろう。
 ただそんなフーダニットの興味に加えて、本の重さで床が抜ける寸前のマンションの一室(透たちが入って本当に抜けてしまう)で殺人を行った犯人はどのように部屋に入り、どのように脱出したのかという「重力密室」の趣向などは相応に面白い。真相を知るとなんだ、の部分はあるが、変化球の密室設定としてはひとつのアイデアである。
 しかしこれ、本当はシリーズ化しようとしたんだろうね。続編らしいものはまだ書かれていないと思うけれど。

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