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ミステリの祭典

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葬列

作家 小川勝己
出版日2000年05月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2022/01/31 22:40登録)
不幸のどん底で喘ぐ中年主婦・明日美としのぶ。気が弱い半端なヤクザ・史郎。そして、現実を感じることのできない孤独な女・渚。社会にもてあそばれ、運命に見放された三人の女と一人の男が、逆転不可能な状況のなかで、とっておきの作戦を実行した―。果てない欲望と本能だけを頼りに、負け犬たちの戦争がはじまる!戦慄と驚愕の超一級品のクライム・アクション!第二十回横溝正史賞正賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

全体的に途中でダレル事もなく、最後まで楽しめるのは間違いないと思います。主役はラブホテルで働く主婦明日美とやくざの史郎です。二つのストーリーが並行して進行し、何処で如何繋がるのかと興味深く読めます。寄る辺のない人々の描写がややハードに続き、あまり犯罪小説らしい所はなかなか見せないのですが、リーダビリティに優れている為、飽きません。
ふたりの主人公やその関係者たちには、個人的に全く感情移入の余地がないと感じました。それはそれぞれの人物の感情があまりに剥き出しに描かれている故だと思います。良くも悪くも人間の醜さや弱さが克明に晒されているので、嫌悪感を抱く読者も多いかも知れませんね。

横溝正史賞の選考委員の一人、北村薫が選評で書いているように、途中から参戦する渚が最も魅力的なキャラであり、彼女を出し惜しみせずに主役に据えた物語にすればもっと面白い小説が出来上がったかも知れません、そこがやや残念かも。
それでも終盤に何とも言えないミステリっぽい意外性を発揮して、驚かせてくれます。そのサービス精神と言い、細かい枝葉まで神経が行き届いている点と言い、受賞作として相応しいものと思います。

No.1 7点 Tetchy
(2013/07/22 23:02登録)
小川勝己氏が横溝正史賞を射止め、その年の『このミス』でも第位にランクインした鮮烈なデビュー作がこれ。現在の奥田英郎作品の『邪魔』、『無理』のような、社会の底辺で貧困にあえぐ下層社会の人々が一世一代の大勝負に出るピカレスク小説だ。

葬列。そのタイトル通り、死屍累々の山が築き上がる。その有様は実に壮絶。これは宴である。狂乱の宴だ。性格破綻者の小市民たちとやくざとの抗争と云う名の宴だ。

史郎、明日美、しのぶ、渚の4人組がいよいよ九條の別荘に乗り込む420ページからの約40ページは新人の作品とは思えないほどの勢いと迫力に満ちている。息を呑んでページを繰る手が止まらない自分がいたことを正直に白状しよう。
さてやくざが絡む大金を巡る下流社会の人々の抗争と云えば馳作品を想起させるが小川作品と馳作品とではテイストが全く異なる。馳氏の物語は人間の卑しいどす黒い負の衝動を物語が進むにつれて肥大させ、それが破裂して破滅の道を辿るという、終始暗いムードが漂うが、小川作品は登場人物たちの設定ゆえにどこか滑稽でこれら頼りない社会の底辺で生きる面々をいつのまにか応援してしまうのだ。

惨たらしい殺戮シーンながらもどこか爽快感とカタルシスが残り、主人公と同様のひと仕事を終えた心地よい疲労感が得られる。
それはひとえに小川氏の描く登場人物造形のユニークさがあるからだろう。白いマンションに住むことを夢見て過去にマルチ商法に嵌って夫を身体障害者にしてしまった三宮明日美。明日美をマルチ商法に誘い、一攫千金を願いながらも上手く行かない人生を儚み、全身整形を施した人造美人の葉山しのぶ。高校の先輩に誘われて極道の世界に入ったものの、生来の気の弱さからやくざになりきれない小心者、木島史郎。アメリカ滞在時に両親をミリタリーマニアの学生らにゲームさながらに殺され、自身も輪姦されながらも唯一生き残った心をどこかへ置き忘れた帰国子女、藤並渚。
そして彼らを筆頭に敵役の九條、堺、海渡と云った極道連中と癖のある刑事隅田ら脇を固める面々一人一人が戯画的なキャラクターでありながらドラマを形作る。どこかマンガを読んでいるような感覚と妙に詳細な銃器の説明と小道具となるラヴホテルの従業員たちの仕事の内容と、パロディとリアルが同居した奇妙なノワールの世界がこの作品にはあり、それが一種独特な雰囲気を醸し出している。

正直、人が大勢死ぬ作品を読むのはどうにも辟易だったが、案に反して実に面白く読むことが出来た。アクの強い人物たちが最後に華々しく銃撃の花火を放って散りゆく。それは迫真に迫りながらもどこか滑稽で爽快感が漂う。この読後感は、そうクエンティン・タランティーノ監督作品を観た後のようだ!

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