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ミステリの祭典

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プードルの身代金

作家 パトリシア・ハイスミス
出版日1985年07月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 8点 tider-tiger
(2024/02/23 00:16登録)
『エド(レイノルズ)は、自分の想像以上にクラレンス・ドゥアメルは明確な考えを持たず、未熟だと思っていた』本文より

~レイノルズ夫妻の飼犬リザが行方不明となり、夫妻はのちに身代金を要求される。夫妻は犯人の要求に従ったのだが、それでもリザは還らなかった。警察に知らせるも、捜査はおざなりで夫妻は途方に暮れる。そこへ親身になってくれる若い警官が現れる……。~
※本文内でリザの犬種は『フレンチ・プードル』とありますが、自分はそんな犬種は聞いたことがありません。どんな犬なのでしょうか。ちなみに自分が所有しているのは1997年発行の扶桑社版です。

1972年アメリカ。リプリーシリーズの二作目『贋作』と三作目『アメリカの友人』の間に発表された作品です。ハイスミス中期の作ということになるのでしょうか。本作あたりから彼女の筆が遅くなりはじめているようです。
上記あらすじからは想像もつかない結末を迎えますが、そこに至る過程が多面的かつ緻密に構成され、高い完成度を誇っています。エンタメとして起伏はあまりないものの、独特なサスペンスに溢れております。
なぜ本作がそれほど有名ではないのかが不思議です。ハイスミスの最高傑作の一つではないでしょうか。

序盤に若い警官がやらかしたミスはちょっとあり得ないのではないかと。さらにそのあとの夫妻の決定にかなり強引さが見られます。これは本作の瑕疵ではないかと思います。
動物を誘拐して身代金を要求するというアイデアはあまり活かされず、先を読めない展開はいつものハイスミス。これはエンタメ小説としてはあまりいい意味ではなくて、読者の期待をことごとく裏切って変な方向に舵を切っていくいつものハイスミスということです。
被害者夫婦は静かに悲しみに耐えようとしているのに、そんな彼らの生活を引っ掻き回す善人がいます。
ごくごく普通の人間が抱く、ごくごく当たり前の感情がいくつも合わさって大きなうねりとなっていくさまは見事です。

読み手によってとある主要人物の見方が割れるような気がしています。
理想主義者ではあるのでしょうが、ごく普通の善良な人物なのか、そうではないのか。自分は後者のように感じておりますが、前者だとする人の方が多そうな気はします。
ハイスミス作品は『殺人を断罪しない』ことが特徴の一つだとよく言われております。もっと突っ込むと、ハイスミス作品では殺人が人物評価になんの影響も与えないのです。『人を殺すような悪い奴』『人を殺したけど本当はいい奴』こうした概念が存在しないかのようであり、そのことに気づかずに読んでしまっていること、作者自身もそのことに無自覚でありそうなことがなんとも薄気味悪いのです。
あとがきにトンプスンとハイスミスの類似に関する言及ありますが、自分も同感です。特に本作にはジム・トンプスンに通ずるものを強く感じます。さらにドストエフスキーが生み出したとある人物が頭に浮かびます。

本作を表現するのにピッタリな歌詞を思い出しましたので、一部を抜粋して終わりたいと思います。
♪ぼくは砂の果実 氷点下の青空~♪ 歌 中谷美紀

※R6/3/18追記 
フレンチ・プードルというのは独立した犬種ではなく、プードルの別称のようです。プードルはフランス原産という説があり、またフランスで人気の高い犬種でもあることから『フレンチ・プードル』の呼称が使用されることもあるようです。自分は初耳でした。

No.1 6点 kanamori
(2014/08/28 20:40登録)
レイノルズ夫妻の愛犬が公園で行方不明になり、身代金千ドルを要求する手紙が届く。警察に相談しにきた夫婦の話を、たまたま傍で聞いていた若い警官クラレンスは、職務をはなれて事件に関わるが--------。

本書は、愛犬プードルの持ち主レイノルズ夫妻の視点を主軸にした誘拐サスペンスではなく、誘拐犯の元建設作業員ロワジンスキー視点のクライム・ノヴェルでもない。善意で事件を解決しようとする若い警官クラレンスが巻き込まれた悪夢のようなトラブルの顛末を描いている。
銀行の人事部の仕事を嫌い、何となく警官になった普通の青年が主人公なだけに、終盤の展開は読むほうにとってもかなり精神的なダメージを受ける。気軽に他人にお薦めするのを躊躇うような結末が控えていました。
ハイスミスの長編を読むのは4冊目になりますが、胸糞の悪い読後感でいえば本書が一番。でも、これはあまり高い点数を付けたくない。

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