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ミステリの祭典

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無垢と罪

作家 岸田るり子
出版日2013年06月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 8点 ミステリーオタク
(2023/04/14 21:23登録)
 連作短編集の形を取っているが、先のお二方が仰るように実質的には6章からなる長編小説と言えよう。単体で読めるのは第1話ぐらい。

 個人的には第5話「幽霊のいる部屋」のエンディングが、偶然流れていたルームミュージックの「星に願いを」とシンクロして感極まってしまった。

 各編の絡み方が技巧的過ぎて、驚き、戸惑い、合点の繰り返しだったが、愛、運命の悪戯、絶望、底知れぬ切なさ、救い、の物語として非常に印象深い作品だった。

 正直真相はあまりしっくり来ないし、あの子も○○に守ってもらえばよかったのではないかと思うし、京都弁の会話はキツかったが、忘れられないミステリ(本格とは言えないが)になりそうだ。

 本作の作品名も第1話のタイトル「愛と死」でもよかったのではないか、と読後ふと感じた。

No.2 6点 E-BANKER
(2022/07/11 13:11登録)
~幼き日の想いや、ちょっとしたすれ違いが月日を経て意外な展開へと繋がる連作集~
というわけで、寡作な作者が発表した企みに満ちた連作短編集。
2013年の発表。

①「愛と死」=連作の初編は、小学校の同窓会が舞台。24年振りに初恋の女性と再会した本編の主人公なのだが、彼女はどこかおかしい。そしてその翌日、彼女がすでに死んでいたことを知る・・・。一体なにが?
②「謎の転校生」=①の脇役が本編の主人公。舞台は京都市内の中学校へと変わる。謎の転校生が落とした手紙が更なる謎を呼ぶことに・・・。一応、それには決着が着くのだが、どこか不穏な空気が。
③「嘘と罪」=②の脇役が本編にも登場。京都市内のあるアパートを舞台にして起こる哀しい殺人事件。罠に落ちたと理解した主人公はその運命を受け入れてしまう。
④「潜入調査」=①~③のからくり、裏事情が少し明らかにされる本編。②に登場した謎の転校生の「謎」が明かされる。でも、いくら似てるからと言っても年齢的にキビしいのでは?
⑤「幽霊のいる部屋」=①に登場(?)した女性が再度本編の主人公で登場。今の時代、まるで昭和の昔に返ったような貧困化が進んでいるというけれど・・・。こんな死はツラい。
⑥「償い」=連作の謎が一応明らかにされる最終作。物語のキモになっていた過去の殺人事件についても真犯人が明かされる。

以上6編。
他の方も書かれてますが、連作形式にはなっているけど、長編と評した方が適切なのかもしれない。
ただ、こういう企みに満ちた連作短編集は個人的に大好きなので、形式に拘ることは評価したい。
時系列がかなり操作されて(=作者の意図に合わせた順に読者に開示される)見せられるだけに、最初の反応としては「エッ!」っていう感じになり、後の連作で「あーあ、なるほど」と納得させられる。この辺りが作者の腕の見せ所となるのだ。

特段、読者が推理に参加できるというスタイルではないけれど、登場人物たちとシンクロしながら、時代や登場人物たちの成長に合わせて「謎」を追っていけるというプロット。
まーぁ、小粒ではあるけど、面白くはあった。

No.1 6点
(2016/03/04 22:47登録)
2010年5月から2013年3月までという、長い期間にわたって、しかも掲載誌を途中から代えて発表された作品です。一応連作短編集というか、6編全体でまとまる形のものになっていますが、それぞれ独立した短編として読むと弱いところがあります。最初の『愛と死』(武者小路実篤の同題小説を作中に使っています)は、ありきたりな結末ですし、次の『謎の転校生』は説明不足で最後も今ひとつ釈然としません。次の『嘘と罪』は単体で完結した小説とは言えませんが、『謎の転校生』の説明不足な部分を示していて…
ということで、これは発表形式にもかかわらず、むしろ長編として評価すべきものでしょう。ただ、そうすると『愛と死』と5番目の『幽霊のいる部屋』は本筋とは基本的に別の話であり、他の部分との関連性が薄いと思います。最後に向かってゆるやかに溢れてくる静かな哀しみは、この作者らしい味わいでいいのですが。

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