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ミステリの祭典

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モーツァルトは子守唄を歌わない
ベートーヴェンシリーズ

作家 森雅裕
出版日1985年09月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 虫暮部
(2022/04/16 12:25登録)
 クラシック音楽には詳しくないので小説として読んでも楽しめる。ポップ・ミュージックだと突っ込みどころが多くてそうは行かないんだよね。
 ユーモアのタイプとしても好みだし、見せ場の連続でだれずに読めたが、さて振り返ってみると物語はふにゃふにゃしている。特に、注目されると差し障りがあるなら「子守唄」を握り潰せばいいのに、そうせずに別名義で出版させた、と言うくだりが腑に落ちない。

No.1 6点
(2020/03/24 01:52登録)
 一八〇九年六月十五日木曜日、第五次対仏大同盟のさなかのウィーン。スペインの王位を奪ったナポレオンがこれを受けてイギリスと組んだオーストリア軍を撃破し、入城したフランス軍の占領下にあるころ。
 著名な作曲家ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンはなじみの楽譜屋で、おやじにくってかかる若い娘、シレーネ・フリースに出会う。非難された店主トレーク・ドブリンガーの話では、シレーネの亡き父ベルンハルトが残した子守唄を、勝手にモーツァルトの名前で出版したのがその原因だった。彼女はモーツァルトの不義の子とも噂されていたが、その彼も十八年前、ベルンハルトと同じ年に逝去していた。
 本当にモーツァルトのものかも分からぬ、とるにたりぬ過去の子守唄。だがその出版がナポレオンの脅威に揺れるハプスブルク宮廷を揺るがすほどのものとは、この時のベートーヴェンには知るよしもなかった。
 同じ日の午後、来たる演奏会に向けてのアン・デア・ウィーン劇場での練習の最中、二階最前列の貴賓席に座ったきり動かない男に不審を抱いたベートーヴェンは、弟子のカール・ツェルニーに彼を確認させる。それは午前中会ったばかりの楽譜屋トレークの遺体だった。その死体はところどころ焼け焦げているくせに、衣服はいやに湿っぽかった。さらにシュバーツェンベルクにある当の店は、突然の出火で焼失していた。
 十八年前のモーツァルトの死の影に蠢く、第一宮廷楽長アントニオ・サリエリと秘密結社フリーメーソン。事件に興味を抱いたベートヴェンは命の危険をものともせず、ツェルニーやシレーネと共に子守唄に隠された謎を解こうとするが――
 昭和60(1985)年発表。東野圭吾『放課後』と併せ第31回江戸川乱歩賞をダブル受賞した作品ですが、現在の両者の差には隔世の感があります。選考時の評価は『放課後』よりこちらの方が上だったんですが、作者のめんどくさい性格も災いし、各出版社とも揉めて今ではほとんど忘れられた作家に。本書も当然、講談社文庫の乱歩賞全集には収録されていません(もう一つの未収録作は、ついに作者の収録許可が下りなかった高柳芳夫『プラハからの道化たち』)。
 とはいえ難しい題材にもかかわらず、当時売れただけあってテンポはかなり軽快。ベートーヴェンも性格のひねくれまがった男で(というかそういう人しか出てこない)、弟子のチェルニー(こいつもかなりいい性格)と掛け合い漫才をしつつ、とても楽聖とは思えない騒動を繰り広げます。不良中年プラス少年少女探偵団ですね。若書きで説明口調なのが難ですが、歴史・風俗考証はかなりのもの。というよりその辺りを生かした構想が主軸。シャレにならない陰謀劇をギャグを用いて調理した作品で、文庫版の表紙がすべてを語っています。あと、少年時代のシューベルトとかも登場。
 ベートーヴェンシリーズには他に短編集『ベートーヴェンな憂鬱症』(1988)と、彼が土方歳三と共演する異色ファンタジー『マンハッタン英雄未満』(1994)があります。どちらもろくでもないセリフ満載の作品です。

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